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「薄汚くて、うさんくさい」市川猿之助が語る、陰陽師と『鎌倉殿の13人』で演じた“謎の僧”との意外な共通点

市川猿之助(歌舞伎役者)――クローズアップ

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「『陰陽師』はとにかく面白くて、なんでもできちゃう世界。もとの物語が骨太だから、どんどん話を付け加えられるし、映画でも、演劇でもできると思うんです。だからこそ、あえて歌舞伎でしかできないことをやりたい」

 歌舞伎座「鳳凰祭四月大歌舞伎」の昼の部で上演中の「新・陰陽師 滝夜叉姫」。夢枕獏さんの小説を原作に、10年前の歌舞伎座新開場のときに上演された作品が、市川猿之助さんによる新たな脚本・演出のもと、生まれ変わった。

「みなさんのお知恵を借りて、前回見た人が驚きをもって見られるようなリニューアルをしたいと思っています」

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市川猿之助さん

 ときは平安時代、平将門(坂東巳之助)は民のために朝廷に反旗を翻し、東国を掌握。一方、朝廷は俵藤太(中村福之助)に旧友の将門を討伐するよう勅命を出す。妖術使いの陰陽師・蘆屋道満から贈られた鏑矢で、藤太は将門を討ったが、その首は消えてしまった。

 そして、陰陽師の安倍晴明(中村隼人)と親友の源博雅(市川染五郎)は、将門の祟りを案じる。ある日、糸滝と名乗る娘(中村壱太郎)に出会い、博雅は心を奪われるが、実は彼女の正体は将門の妹、滝夜叉姫だった――。

 次代を担う俳優たちが顔を揃えるなか、猿之助さんは道満を演じる。

「演(や)るなら、将門か道満でしたね。晴明はきれいで二枚目。将門は江戸の守り神でヒーローではあるものの、妖術使いではない。そういうなかで、道満だけは薄汚くて、うさんくさい。でも力があり、宮中にもいつのまにか忍び込み、人をおちょくってはどこかへ行く。演っていていちばん面白い役にしようかなと」

 昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で謎の怪僧、文覚(もんがく)役を務めた猿之助さん。京と坂東を行き来して頼朝に平家打倒を説いた文覚と道満は重なる部分がある。

「かき回すだけかき回すんです。文覚は当時の公家の日記には、相当変わっていると書かれていたといいます。文覚は、道満ののちの姿かもしれません。道満は世の中が収まっていたら面白くないから、面白くしようと、あることを企てるんです」

 10年前の前回は新歌舞伎の手法が用いられたが、今回は古典歌舞伎の形式で行われる。

「若手それぞれに見せ場をつくりますので、ふだん彼らがいかに古典歌舞伎を学んできたかということの成果をお見せします。本歌取りと言いますか、歌舞伎好きな方が見たら『これはあの有名な……』と思われるでしょう。また、舞踊は歌舞伎でしかできません。今回は俵藤太が三上山でムカデを退治するのを舞踊で仕立てます」

 猿之助さんの宙乗りも見られる。

「初日が開いてからも努力していこうと京都の晴明神社で晴明様にお誓い申し上げました。コロナ禍で三部制が続いていましたが、久しぶりの二部制の昼の部で、三幕仕立てとして超豪華に演らしていただきます。じっくり楽しんでいただければと思っています」

いちかわえんのすけ/東京都生まれ。1983年7月歌舞伎座「御目見得太功記」で二代目市川亀治郎を名乗り初舞台。2012年、四代目市川猿之助を襲名。テレビ等でも活躍中。

INFORMATION

歌舞伎『新・陰陽師 滝夜叉姫』
東京・歌舞伎座で4月27日まで
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/801

「薄汚くて、うさんくさい」市川猿之助が語る、陰陽師と『鎌倉殿の13人』で演じた“謎の僧”との意外な共通点

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