文春オンライン

連載クローズアップ

「あのケンシロウを僕が!?」『北斗の拳』をミュージカルに…主演俳優が“ケンシロウとして生きるのはハード”と感じたワケ

大貫勇輔(ダンサー・俳優)――クローズアップ

note

「あのケンシロウを僕が!? そう思うと、もちろん、ものすごいプレッシャーでしたよ。そして今回、初演から1年足らずでの再演。心から嬉しいです。その反面、またあのしんどい日々が始まるのか……とも(笑)」

 そう語るのは、ダンサーで俳優の大貫勇輔さん。ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』で、主役のケンシロウを演じる。

 原作は漫画『北斗の拳』。昨年12月の初演後、観劇した原作者の武論尊氏は「いいふうに予想を覆された」、漫画を手がけた原哲夫氏は「あのレベルのミュージカルを日本で見たことはない」とコメント。ミュージカルファンからも支持され、専門誌の昨年のランキングでオリジナルミュージカルとしては第1位に輝いた注目作だ。

ADVERTISEMENT

大貫勇輔さん ©武論尊・原哲夫/コアミックス 1983 版権許諾証GS-111

 漫画やアニメでは、寡黙で、己の愛や正義、弱き者たちのために闘う男として描かれてきたケンシロウ。最強の男というイメージだった。

「でも、ミュージカルでは、歌って踊らなくちゃいけない。つまり、感情を表に出すということ。だから弱音も吐くし、よく泣くし、膝もつく。そう、舞台のケンシロウは、まだ弱くて未熟な存在なんです。それがたくさんの人たちと出会うことで強くなっていく。そういう成長の物語なんだとわかって、自分なりに役を受け止められるようになりました」

 しかし、実際に舞台の上でケンシロウとして生きる日々は、精神的にも肉体的にも、相当ハードだった。

「彼の強さの源は哀しみです。彼は、実に多くの仲間の死を見届けなくてはならない。向き合うのは辛かったですね」

 また、本作の特徴であるアクションシーンはというと、

「ダンス公演でもここまで激しい舞台は経験がなかったし、芝居としても怒ったり叫んだり、声帯的にも大変で……」

 初演時は公演を終えるたび、氷風呂と40分ものマッサージが欠かせなかったという。

「それくらい身体を張って、魂を込めてやる価値のある作品だと感じています。意外かもしれませんが、実は本作は、深い愛の物語でもある。それを脚本家の高橋亜子さんはうまく舞台上に掬い上げてくださっているし、音楽を手がける(アメリカ人作曲家の)フランク・ワイルドホーンさんは、強く美しいバラードを作ってくれました。僕たちは、それを命がけで演じたいんです」

 物語の舞台は、核戦争で荒廃し、暴力や恐怖が支配する弱肉強食の世界。ケンシロウは仲間とともに、世界に光を取り戻すために救世主として立ち上がる。

「今この作品を演(や)る責任を、演出の石丸さち子さんは強くおっしゃっています。僕も、何度もニュースで目にして脳裏に焼き付いてしまった戦争の映像が、ケンシロウたちが生きる世界と重なってしまう。それはとても悲しいことですが、だからこそ、悲しみを力に変えて強く生きる人々の物語を、今、届けたいと思います」

おおぬきゆうすけ/1988年生まれ。17歳からプロダンサーとして活動。バレエ、ジャズ、コンテンポラリー、モダン、ストリート、アクロバット等、多岐にわたるジャンルを踊りこなす。ミュージカルは、2011年『ロミオ&ジュリエット』の初舞台以来、さまざまな作品に出演。さらにテレビ、映画でも活躍中。

INFORMATION

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』
東京公演:Bunkamuraオーチャードホール 9月25日~30日
福岡公演:キャナルシティ劇場 10月7日~10日
https://horipro-stage.jp/stage/musical_fons2022/

「あのケンシロウを僕が!?」『北斗の拳』をミュージカルに…主演俳優が“ケンシロウとして生きるのはハード”と感じたワケ

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー