「ドラフト順位が関係ないことを証明するのがプロ野球の醍醐味」
福永は守備もうまくなりたい。
「キャンプ中はサードが多かったんですが、(高橋)周平さんに三塁線の逆シングルをどういう意識で捕っているのかを聞きました」
先輩は丁寧に教えてくれた。
「グラブを一回地面に付けるイメージで、基本は下から上。打球に近付きすぎると、腕に遊びがなくなって衝突するから、ある程度距離を取った方がいいと」
セカンド起用が増えてからはダブルプレーでベースカバーに入って一塁に送球するまでの動きを荒木雅博コーチから伝授されている。
「まず、左足で二塁ベースを踏みます。大切なのはショートやサードからの送球を捕る時、右足に体重を乗せること。そうしないと、強い球が投げられません。あと、体の近くで送球を捕ると、手が詰まって握り替えが遅れるので、体から離れた位置で捕って、手前に引っ張りながら、握り替えなさいと。これが難しくて」
立浪和義監督からは一歩目の重要性を説かれている。
「その一歩目を素早く踏み出すためにはどんな姿勢で準備するべきかを探しています。足踏みもやりましたし、立った状態から少し沈むのもやりました。試行錯誤中ですね。ゲッツーも含めて守備はたくさん課題がありますが、全て伸びしろだと思っています」
福永は課題を伸びしろと考えている。未完成な今は完成への出発点なのだ。このポジティブ変換能力こそ彼の武器だろう。去年のドラフト会議では12球団の支配下選手で最後の69番目指名。厳しい言い方をすれば、最も期待値が低かった選手だ。
「そこは意気に感じています。良かったです。一番下から活躍して、順位が関係ないことを証明することがプロ野球の醍醐味じゃないですか。こんなにやりがいがあることはないですよ」
実にプラス思考だ。天理高校では甲子園未出場。3年夏の県大会決勝では智弁学園の岡本和真(現・巨人)のホームランに屈した。「あの悔しさは脳裏に焼き付いています」と振り返る。専修大学では「タイトルを獲ったことはありませんし、3年秋からは2部でした」と華やかな活躍はない。日本新薬では2年目に都市対抗野球で2本塁打を記録したが、「コロナでドラフト後の開催でした。夏だったら、プロに行けたかもしれませんね」と笑う。その年は獲得の可能性を示す調査書が4球団から届いたが、翌年はまさかのゼロ。「さすがに凹みました」とポツリ。しかし、福永は言う。
「プロ野球選手になれないイメージは一度もなかったんですよね。不思議ですけど、必ずなれると思っていました」
球歴は決して輝かしくはない。が、前向きな男の脳内には常に子供の頃の夢が描かれていた。気付けば、すっかり大人になっていた。改めて意気込みを聞いた。
「一軍で完走すること。その頃にはもっともっと野球がうまくなっていたいですね」
心の根っこは野球を始めた時と変わらない。純粋でポジティブな背番号68。人は彼を「26歳の野球少年」と呼んだ方がいいかもしれない。
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