人との接し方がデリケートになり、人間関係に起因する問題やトラブルが増加する現代において、「人を傷つけない」だけでなく、「人を励ます」言葉が求められている。しかし、実際に上手に人を励ますことは容易ではない。
私たちはどのように言葉づかいを意識するべきなのか。ここでは、明治大学文学部教授を務める齋藤孝氏の『上手にほめる技術』(角川新書)の一部を抜粋。コミュニケーションにおける大切なポイントを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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「ほめ言葉」は人生を変える
「ほめる技術」の需要は高まる一方です。
人と人との接し方が、以前よりデリケートになり、人間関係に起因する問題やトラブルが増え、「人を傷つけない言葉」「問題を起こさない言葉」、さらにもう一段上の「人を励ます言葉」が求められるようになりました。
皆さんも、人を育てるに当たり、頭ごなしに叱りつけるのではなく、ほめたほうがいいということはご存じかと思います。しかし、実際に上手に人をほめることは出来ていますでしょうか? お世辞やお追従になったり、皮肉めいてしまったり、上手に相手をほめられた、と自信を持てることは、あまりないのではないでしょうか。
ほめるのがいいとわかっていても、「上手にほめる」のは案外コツがいるものです。
人をほめればほめるほど、自分の機嫌が良くなる
ここでは、相手をただほめるのではなく、「上手にほめる技術」を学んでいきたいと思います。上手なほめ言葉は、必ずしも技巧をこらした表現である必要はありません。ごくふつうのフレーズでも、使い方次第で効果が上がります。タイミングもとても大事です。
唐突にほめるとぎこちなく、伝わりにくいので、相手の言葉が返ってきたところに戻す形でほめると、流れがよくなります。
ほめ言葉には、人間関係をよくしていくための型があります。上手にほめることによってほめる側の人間性も練れて、上機嫌になり、不機嫌の影をふり払うことができるのです。
私も元は不機嫌な時もけっこうある人間でしたが、教員になり、審査員やコメンテーターの仕事を引き受けるようになって、ほめ言葉の練習をする機会が増えました。
そして、人をほめればほめるほど自分の機嫌が良くなることに気付いたのです。