「5000円でも高い……かな?」
「うん。でも、乳がんかぁ……若くてもなるって言うよね? この前、元アイドルの子も20代でなったってニュースで見たし、気にはなるけどなぁ……。もうちょいお金に余裕があればなぁ」
「お金……かぁ」
「派遣だからねぇ、やっぱ給与がね。もうギリギリだよ。男性の正社員と比べると絶望的。自炊するけど、安い店必死に駆け回ってる」
「わかる……もやし最強だよね」
「みかんは正社員だからそれなりにもらってるんじゃないの?」
「そんなわけないじゃん! 保険取れなきゃ、3年目には給与9000円って人もいるんだよ」
「へ? バイトの日給じゃなくて?」
「まさかの正社員の月給」
「もし、お金を気にしなくていいなら入るんだけどねぇ」
「保険料を肩代わりすれば……」頭をよぎった危険な考え
保険料立て替えという罪は、立て替えた分のお金を返してもらってチャラにできた気でいたが、やはり償っていないので、罪はいつまでたっても罪として、私の中に残っている。保険に入りたいという意思はあるけれど、金銭的に余裕がないという友人を前にしたとき、それが疼いた。
この仕事をしてきた経験上、保険に率先して入りたいという人は少ない。保険に入りたいけれど、金銭的理由が邪魔をして入れない人なんて、なかなか出会えない。
ビンゴが始まるや否や、皆「真ん中が三上かぁ」と嘆きつつも、続々と契約を積み上げた。
そしてもう、NJ(編集部注:会社から指定されているノルマ。ノーマル実働の略)を達成した人もいた。達成者の名前の上には、紙で作られたピンクの花がつけられる。「三上」という名前の周りに少しずつ花が咲き始めた。私以外が咲き誇り、いたたまれなくなる日も近いだろう。そうさせないためにも、私も花に水をやらねばならない。こんな人、逃しちゃいけない気がした。
保険に入るのに障害があるのであれば、それを私がどうにかしてあげる、岩ならば砕くし、獣が立ちはだかっているのならば狩ってあげる。追い詰められる日々によって、悪い意味での死に物狂いの精神だった。この獲物を逃すものかと、私の口はすんなりと、とんでもない言葉を口にした。
「お金のことなら気にしないで」
「え?」
「私が出すよ」
「え、でも、みかんも大変なんじゃ」
「ううん、私はまだ保障給があるの! だからさすがに9000円はないからさ」
保障給は、本当は雀の涙ほどしかない。手放すのが惜しい。生きていくのに必要なお金。意志に反して口が動いた。
「気にしないで! ほんとに。がんとか怖いし、入っておいて損はないでしょ!」
「う、うん。じゃあ、余裕ができるまでお願いしても……いい……?」
マサ(編集部注:筆者の小学校の同級生。戸籍はまだ女性だが心は男性)の保険料を肩代わりしたときにふと、「こういうやり方をすれば保険に入ってくれるのではないか」という魔が差した考えが浮かんで、「いけない、それは違反だろう」と自分を諫めたことがある。あれが伏線になってしまった。
「本当にいいの」
「うん、もちろん」