就活に疲れ果てた若者がたどり着いたのは保険の世界。就職前は、洗練された大人な女性保険外交員に憧れていたものの、いざ入社してみると、あまりにも過酷な現実が待ち受けていた……。そんな保険業界での厳しい現実と、その中で生き抜く苦悩をまとめた一冊が、忍足みかん氏による『気がつけば生保レディで地獄みた。』(古書みつけ)だ。
ここでは同書の一部を抜粋。恐るべきノルマの実態、そして、ノルマに追い詰められた女性がとって驚きの行動について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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契約が取れないと給与はバイト以下
「もしもし? みかんだけど! あのさ、お茶しない?」
「あ、先生、お久しぶりです! 三上です~。今度よかったら」
残る友人や知人で保険の話を聞いてくれそうな人に片っ端からアポを取り、保険を勧めていく。
休職を挟んだ期間に私からの「お茶しよ」「イベント来ない?」の連絡がなかったから、皆、私が保険屋を辞めたと思っていたらしく、警戒されずに会えた。すんなりとアポが取れると、『赤ずきん』に出てくる狼のように、自分がこずるい生き物になってしまった気がした。とはいえ、こずるい上等、だと何食わぬ顔で会っては保険を勧めた。
社会人を2年もやってると、会社に保険屋が出入りするせいか、交わし方を身に付けてきている。
「あのね、言ってなかったけど、私の叔母が保険屋さんだから、保険はその人に全部任せてるんだ」
「え? そうなの? どこの会社って聞いてもいい?」
「えーっとジャパン生命……」
職域での縄張り争いのように、私たちには身内が保険屋の場合、手を出せない…という暗黙の了解があった。
身内に保険屋がいる=縄張りよりもさらに手が出せない、もはや神域だ。
それを知っているのかわからないが、以前はそんなこと言っていなかったのに、皆、口を揃えて「叔母が」「いとこが」と言うようになっていた。嘘か本当かわからない。しかし、言われたらもう無条件に引くしかない。どうしよう。
そんなとき、とある友だちに会った。
中学校時代の同級生の彼女は、派遣で働いているから保険屋との接点はなく、「叔母が」「いとこが」の盾にかわされることはなかった。
「保険かぁ……入りたいけど、手取り安いから、この金額は無理かなぁ」