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「腐敗が進み、鼻を突き刺すような臭いも…」“遺体コンテナ送還”の現場は驚きの連続だった

ドキュメント「国際霊柩送還士」 #1

2023/04/23
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特殊帰国者の「パスポート」と「通関手数料」

 貨物エリアの光景はさらに衝撃的だった。普段、旅行者などが立ち入ることのないこの地区は、倉庫と変わりない場所だ。青果や水産物の市場のごとくトラックが行き交い、段ボールがあちこちに山積みされている。それほど広くないスペースに発泡スチロールの白い箱が積み重なり、ネギやキャベツの絵がついた段ボール箱が山積みされている。その脇を何台ものトラックが、音を立てて通り抜けていく。静けさとは程遠いこの場所と遺体が結びつかない。

 いくら貨物扱いとはいっても、遺体はやはり“物”ではない。一緒に迎えに行きたいという遺族には悪いが、遠慮してもらうとA氏は話す。悲しみにくれる遺族がこの光景を目にすれば、心穏やかにはいられないだろう。

写真はイメージ ©️AFLO

 エンバーミングを施されてきた遺体には、荷札のごとく貨物用のナンバーが割り当てられている。遺体を受け取るには、ナンバーが記された封筒に入った死亡診断書などの書類一式が必要だ。この書類が特殊帰国者のパスポートになる。輸入貨物書類引き渡しカウンターで書類を受け取り、通関手数料を払う。生きている人間が入国するのに金はかからないが、貨物となれば数万円という通関手数料が発生する。すべての書類を確認した後、A氏らと特殊帰国者を引き取りに向かった。

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内側に鉄板が張られている、美しく頑丈な木製の棺で

 貨物エリアには屋根つきの倉庫がある。この比較的ゆとりのあるスペースの奥に、銀色に光る約2m四方の大きなコンテナが置かれていた。正面の扉が開かれ、その真中に棺が1つだけ置かれていた。コンテナ輸送される遺体は、貨物用のスペースがある大型飛行機でなければ運べない。特別貨物になるため、基本的に1つのコンテナに1つの棺だ。だが空港や航空会社によっては、旅行者の荷物と一緒にコンテナに詰め込んでしまうところもあると聞いた。

 大型霊柩車をおおよそコンテナの傍らに停める。すでに空港作業員たちが棺の側で待っていた。コンテナの中央に置かれた棺に全員で一礼し、数人がかりで棺を担ぎ上げる。告別式で担がれる棺と違い、送還時の棺は桁違いに重い。この日の棺は、見た目も美しい頑丈な木製の棺だが、内側には鉄板が張られているため想像以上に重い。さらに遺体は防腐処理として大量の防腐液が注入されており、成人男性だとたいがい100キロは超えるという。静かに慎重に重い棺を霊柩車に入れると、再び一礼し後部ドアを閉じた。

 霊柩車が戻り、エンバーミングが開始される。A氏が木製の棺に付けられた名前のプレートを丁寧にはずし、もう一人のエンバーマーが棺の蓋を持ち上げた。最初に見えたのは鉄板だ。飛行機の気圧や温度差で遺体が影響を受けず、また注入した防腐剤や体液などが棺の外へと漏れないようにするため、棺の内側は鉄板で2重、3重に覆われている。鉄板を切らなければ遺体を取り出せないので、ここでは電動カッターが使われていた。