Amazonプライムビデオで配信されているドラマ『エンジェルフライト』が好評だ。米倉涼子が、海外で亡くなった人の遺体を国境を越えて遺族に送り届ける国際霊柩送還士を演じている。
ここでは、筆者が実際に取材した霊柩送還の驚きの現場をレポートする。(全3回の3回め/#1、#2を読む)
「エンジェルメイク」で元気だった頃に近い姿に
特殊帰国者として日本に帰ってきた遺体は、亡くなった国の法律に則ってエンバーミング処置を施され、送還される。成田で特殊帰国者を受け取ると、エンバーマーは遺体の状態を確認し必要に応じて処置を行う。そして、できるだけ元気だった頃に近い姿に近づくようメイクを施す。
病院で亡くなった人に、看護師がメイクしたり、自宅に帰ってきた故人を送り出す前、納棺士が湯灌の後に化粧をすることもある。このようなメイクは「エンジェルメイク」と呼ばれるが、エンバーミングでは特殊なメイク用品が使われる。防腐処理された肌は極端に乾燥していて、普通のファンデーションはうまくつかないのだ。
肌に水分が足りないなら、化粧水や下地を塗ればいいと思うのは間違いだ。防腐処理は遺体を乾燥させるためのもので、だからこそ遺体は腐らない。ミイラと同じだ。乾燥させた遺体を湯や水に浸したらどうなるのか。あっという間に膨張して柔らかくなるが、急速に腐敗が進む。
ファンデーションはほとんど油分でできており、まるで油絵具だ
特に皮膚の表面は乾燥が進んでいるため、修復した箇所が崩れたり、閉じていた傷口が開き、中から液が漏れだす可能性もある。かろうじてついていた皮膚がはがれ落ちることもある。そのためエンバーミングされた遺体に、遺体を清めるための湯灌は行わない。乾燥がひどい国から送られてくる遺体は、顔や手足に油分の強いクリームを塗り、皮膚が裂けないよう保湿する場合もある。
エンバーミング用のメイク用品は油分が多い。ファンデーションはほとんど油分でできており、まるで油絵具だ。
「このファンデーションは米国から輸入した物。でも中国では、本当に油絵具を使っているところがあった。指でペタペタ、ぺたぺたって」とエンバーマーのA氏がいう。冗談かと思ったが、K氏が真面目な顔で
「もちろん、霊柩送還されてくる日本人の顔に、絵具は塗っていない。お金のない中国人には遺体の顔に油絵具を塗り、お金が取れる外国人にはファンデーションを塗って、費用を請求していた。葬儀社も商売だから」
一般的な物ではないので、1個あたりの値段が高くなるのだ。欧米では、様々な人種の肌色に合わせた遺体用ファンデーションが売られているが、日本ではインド人や黒人の肌色に合わせたファンデーションは少なく、手に入りにくいという。