海外で亡くなった人の遺体を国境を越えて遺族に送り届ける「国際霊柩送還士」。そんな職業を題材にした米倉涼子主演のドラマ『エンジェルフライト』が、Amazonプライムビデオで配信された。

 遺体の消毒や防腐処置、必要に応じて修復を行うエンバーマーたちが直面する遺体搬送の現場とはどのようなものか。彼らがこれまでに経験したという驚きの送還事情を取材した。

「エンジェルフライト―国際霊柩送還士―」(Amazon Prime Videoより)

腐敗しかけた遺体を日本で棺を開けたエンバーマーたちが修復

 以前、遺体送還について外務省の邦人安全課の担当者に聞いたところ、「海外の国々は、概して遺体の扱いが雑」という答えが返ってきた。搬出してくる国にもよるが、ビニールで何重にもぐるぐる巻きにして送ってくる国や、亡くなった国で解剖された遺体が、首から臍の下までまっすぐに切開され、その傷跡を医療用のホチキスで何箇所かパチンパチンと留めてあっただけ、というひどい遺体もあったという。

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「海外から帰還した遺体は、雑に扱われていることも多いため、そのまま家族に引き渡すのは忍びない。そのため日本側の受け入れ業者には、きちんとした処置が望まれる」と担当者は述べていた。

 遺体送還を行うエンバーマーのS氏は、

「中南米のある国から帰国した遺体は顔も身体も腐って真っ黒。中国からの遺体も腐っていることが多かった。中国はエンバーミング技術が欧米と比べて低く、血管を切除して防腐剤を注入するより、防腐剤を直接遺体に注射するという安易な方法をとっていた。これだと防腐液が身体の隅々にいきわたらず、つま先や指先から腐敗し始める。中途半端に防腐処理された遺体は、あちこちに傷ができ、着ていた服は漏れ出た体液でべとべと。腐臭もひどい。だが遺体は一言も文句を言わないから、そのまま送られてくる」

 と語る。日本で棺を開けたエンバーマーたちが、腐りかけてしまった遺体を消毒し、開いた傷口を修復する。

英国や米国はエンバーミングが完璧

 南米からの遺体は、エンバーミング技術が低いため変色していることが多く、ギリシャやイタリアもエンバーミング技術はそれほど高くなく、血液を排出し薬剤を入れるための切開跡が大きいという。ヨーロッパの国々は地続きのため、遺体の搬送は自動車による陸送が中心になる。飛行機を使うより圧倒的に短時間で搬送できるため、高度なエンバーミング技術を必要としないのだ。切開跡の縫合が雑に行われていることも多いらしい。