英国からの遺体は、日本と同じ島国なので空輸が多く、遺体もきっちりとエンバーミングされきれいな状態で送られてくる。米国も同様だ。特に紛争地域で日本人が亡くなった場合、搬送や処理を米軍が行うと、完璧ともいえる状態でエンバーミングが施されているという。東南アジアではタイからの遺体が、比較的きれいな状態で送還されてくるようだ。
日本もひと昔前までは、ドライアイスで処理しただけの遺体を送還していたため、母国についた頃には真っ黒に腐敗しているものが多かった。今は技術も進み、腐敗の進んだ遺体や、体液が漏れ出す恐れのある遺体を搬出しなければならない場合は、ビニールでぐるぐる巻きではなく、遺体専用の収納袋に入れられ送還される。
宗教によっても事情が異なる遺体の送還
国内で搬送する場合、火葬国である日本はエンバーマーにエンバーミングを施してもらうより、葬祭業者や納棺師が遺体を修復する場合が多いのが現状だ。
地方都市にいる納棺師は「事故遺体などの修復は、基本的に納棺師がすることになる。飛び降り自殺の遺体で、頭蓋骨が割れてしまっている場合などは、二人がかりで修復する。『割れたズラ、持ってきて』って言われたら、頭蓋骨を持っていく。隠語を使い、カツラに見立てて頭蓋骨をズラと呼んでいた。脳の中に防腐剤やら吸収材やらを詰めて頭蓋骨を元の位置に戻し、隙間ができたら、そこを厚紙などでおさえて形を整えて、包帯を巻く」と語る。あとはドライアイスで冷却し、防腐処置は行わないという。
遺体の送還は宗教によっても事情が異なる。ユダヤ教やイスラム教は土葬のため、火葬にはできず、遺体を身体のまま送還する。
エンバーミングを断る家族も
「この2つの宗教において遺体を火葬することは、死者を侮辱することであり、魂を地獄に落として地獄の炎で焼かれることを意味する」とS氏はいう。死者が復活するとする教義があるため、遺体を焼いてしまえば、復活した時に必要な身体がなくなってしまうと考えられているという。
だが故人の身体が帰ってくることが求められるため、事故で遺体がバラバラになっていても、復元や修復をすることなく、そのまま白い布を巻いて送還する。
「敬虔なイスラム教徒は、エンバーミングを断ることが多い。身体に血液以外のものが入ることを、禁止しているからなのかもしれない。送還までに時間がかかり遺体の状態が悪くなるとわかっていても、宗教上、決して防腐処置を行わないという家族もいる。母国に着いた時、遺体の状態を保証できないと説明しても、彼らは『それでいい』と答える」(S氏)