Amazonプライムビデオで配信されているドラマ『エンジェルフライト』が好評だ。米倉涼子が、海外で亡くなった人の遺体を国境を越えて遺族に送り届ける国際霊柩送還士を演じている。
ここでは、筆者が実際に取材した霊柩送還の驚きの現場をレポートする。(全3回の2回め/#1、#3を読む)
看護か介護をしているかのような「エンバーミング」の現場
勢いよく回る換気扇が、防腐処理のために遺体に注入されていたホルマリンの臭気を屋外へと吐き出していく。棺の中にあった鉄板がはずされ、遺体となった男性が姿を見せた。棺から出しステンレス製の台に移動させる。
鉄板をはずして10分ほどすると、ホルマリンが外へと排出されマスクとゴーグルを外すことができた。透明なビニール手袋は着用したままだ。
「お父さん、ごめんなさい。身体をチェックしなければならないから、洋服を脱いでもらいますよ」
エンバーマーのA氏が遺体にそう話しかけた。声をかけた方がやりやすいのだという。エンバーミングは静かに厳かに行われるものというイメージを抱いていたが、実際の現場は看護か介護をしているような印象だった。物言わぬ遺体に処置の度に声をかけるのは、遺体は単に物ではなく、帰りを待つ家族にとって大切な人を預かっているという意識があるからだろう。
A氏とエンバーマーのK氏が男性の着ている服を脱がせ始めたが、筋肉も関節も固まっているためシャツの腕がうまく抜けない。
「お父さん、腕が抜けないから、シャツは切らせてもらうね」
A氏は大きな鋏を取り出し、ジョキジョキとシャツを切りながら、「それにしてもお父さん、体格がいい分、重いね」と苦笑する。
故人は身長180センチ、体重90キロと大柄の体格だ。筆者も遺体の足を持ち上げたが、想像以上に冷たく堅く、ずっしりと重い。膝はまるで曲がらず、ほぼ丸太を抱え上げているような印象だ。3人がかりですべてを脱がせ終え、ステンレスの台の上に裸の遺体が横たわる。
「どんな遺体でも、臭いをかいで状態を確認」
A氏とK氏が身体の隅々までチェックする。顔色はどんな色か、身体全体はどんな状態になっているか。するとA氏が遺体の口元や鼻先に自分の鼻をぎりぎりまで近付けた。臭気はあるか、あればどんな臭いなのか判断するためだが、「そのためにそこまでやるのか⁉」と一瞬、たじろいだ。
今回の遺体は見るからにきれいで、業界用語でいう「機嫌のよい」状態だ。異臭を放って変色している「機嫌の悪い」遺体ではない。まさか機嫌の悪い遺体でも鼻を近づけ臭いをかぐのか聞くと、A氏はケロリとした顔で「どんな遺体でも、臭いをかいで状態を確認する」と事も無げにいう。