『カメラを止めるな!』の上田慎一郎はどうやって上田慎一郎監督になったのか。『カメ止め』を見て「やられたー」と思い「じんわり胸が暖かくなった」などとふだんぜったい思わない感想を素直に抱いてしまい、もしかして上田監督が日本の人情劇の先端を行く人になるんではなんてことまで思った。さいきん話題になってた『レンタル部下』のショートムービーも(検索すれば見られます)「やられた……」。才能あるなあ。

 しかし上田さんは若い頃、琵琶湖をいかだ横断して遭難&お騒がせとか、ネットで空気を読まない大言壮語&自分語りをやめないとか、一部では痛い人として有名だった。その手の痛い人が後に大成するというケースはほぼ絶無ではなかろうか。痛い人というのは、自分も痛いほうだから痛いほどわかるが、自分の才能の出し方をほんのちょっと間違えただけだ!と信じて「やり方を変えれば」と、はた目にはまたやってるよと言われるようなことを繰り返す。ストーカーと同じ心理。

 現在の上田さんは、ストーカーが晴れて相手と相思相愛になり今もラブラブ、みたいな状況だ。なぜ上田さんがそこまで行けたのか。

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上田慎一郎監督 ©文藝春秋

 そこにやってきた『超多様性トークショー!なれそめ』。いろんなカップルのなれそめを聞く番組。『新婚さんいらっしゃい!』みたいなもんかと思うが、OPにウエディングドレス同士のイラストなどもある。多様性だから。そこに上田夫妻登場。上田さんは奥さんと出会って変わったと聞いたことがある。謎が解き明かされるのだ。見るしかない。見た。すると。

 つき合うきっかけは奥さんのふくだみゆきさんの「破天荒な上田さんのDNAが欲しい」という思いつきから。え?

 ふくださんも映画監督で『カメ止め』のポスターつくった人で、ちゃんとしたクリエイターなんですよ! しかし……ここでふくださんの話を聞いていると「同じぐらい上田さん的な人なのでは……」とナチュラルに思わせる。2人の結婚式の動画が出たが、列席してたらキツかっただろうと思わせる踊ったり暴れたりのイベント結婚式。まだ何者でもない時代の上田さんを「面白い」と思ってDNAを欲しがる人ならそうなるか。2人並ぶと何か上田さんのほうが落ち着いた常識人みたいに見える衝撃。マイナスかけるマイナスはプラスになるとか、そういうもんなんだろうか? しかしYOUのリアクションは笑いながら微妙に嗤いも混じる感じがあり、それを見ると2人を応援したい気持ちにもなるので、YOUの存在は貴重なのかも。

 上田さんは「シン・山田洋次」として国民的人情映画監督になると思っているので「このままで突き進んでくれ」としか言えない。が、頑張れ。

INFORMATION

『超多様性トークショー!なれそめ』
NHK Eテレ 金 22:00~
https://www.nhk.jp/p/naresome/ts/KX5ZVJ12XX/