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ついに開けられた1メートルほどの金庫には…

 ところが、である。大型金庫に入っていたのは古いスーツとネクタイなど。そして小型金庫のほうも、土地建物の権利書などの書類が入っているだけだった。

「そこにいる誰もが拍子抜けしました。私も現金が入っているとばっかり思ってたんですけど、こりゃあ別のところにあるんだな、と……」

 マコやんがそう思うのには理由がある。聞けば、ドン・ファンはたえず多額の現金を移動させていたというのだ。

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「社長は現金をどこに置いておくかを、いつも考えていました。大型トランクをガムテープでぐるぐる巻きにして、それを信頼できる従業員に運ばせて、近所の家などに預けていたんです。私も運んだことがありますが、重さからしてトランクの中には2億円くらいの現金が入っていたのではないかと思います」

 トランクは会社の金庫部屋に置かれることもあったが、自宅や知人の家に「隠される」ことが多かったという。ドン・ファンは過去にマルサに摘発された経験がトラウマとなっており、苦労して作った隠し資産の存在がバレないように、定期的に置き場所を変えていたのだ。貸金業はもうやっていないが、どうしても貸して欲しいという知人には、そこから金を貸すこともあった。マコやんが続ける。

「社長の資産と言えば、銀行に数億円の貯金があるし、証券会社の口座にも数億円が残っています。ただ、それらとは別に、社長の隠し資産があることは従業員なら皆知っていることでした。金庫に現金がなかったということは、どこかに移動させて置いてあるということです。トランクは相当重かったので、社長一人では絶対に持ち運びできない。だから信頼できる従業員を使って移動させていたのです」

野崎氏

「大きなトランクはすごく重くて40キロくらいありました」

 実際にドン・ファンから「荷物」を預かったという、近所の一軒家の主人から話を聞いた。

「うん。たしかに何回か預かりましたよ。朝5時頃、周囲に誰もいないのを確認しながら、ガムテープでぐるぐる巻きにした大型のトランクを若い従業員が運んできて、うちの家の階段の下に置くんです。大体1週間くらいで引き取りにくるんだけど、1回につき4万円ぐらいお礼を置いていきましたね」

 ドン・ファンとこの主人の関係が崩れたのは、約1年半前のことだった。

「引き取りにきたときに社長が『ガムテープがはがれているやないか。お前見たな』と言いがかりをつけてきたんです。いくら『見ていない』と言っても水掛け論で、それ以来、私を盗人呼ばわりするような電報や抗議書を社長が送ってくるようになりました。それで私は警察にも相談したんですわ。それ以後は一度も預かっていません」