あのヒトラーよりも人民を虐殺としたと言われるソ連の指導者・スターリン。強く、冷酷な独裁者のイメージの強い彼だが、実は「大の宴会好き」という一面も。

 とにかく飲ませるのが好きだったその酒癖とは? ライターの栗下直也氏の新刊『政治家の酒癖』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

シャルル・ド・ゴールをドン引きさせるほどひどかった「スターリンの酒癖」とは? ©AFP=時事

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冷酷な指導者・スターリン

 ビッグスリーと言えば、何を思い浮かべるだろうか。車好きの人ならば、「ゼネラルモーターズ」「クライスラー」「フォード」の米国自動車メーカー3社だろうか。お笑い好きの人ならば、ビートたけし、明石家さんま、タモリか。あらゆる業界にビッグスリーは存在するが、20世紀前半の世界政治のビッグスリーと言えば、ウィンストン・チャーチル、フランクリン・ローズベルト、そしてヨシフ・スターリンだ。

 スターリンは寡黙で狡猾だった。モスクワの米国大使のアヴェレル・ハリマンはビッグスリーを比較して、彼を「戦争指導者として最も有能だ」と評価している。

 大柄に見えるかもしれないが、163センチメートルしかない。外国の大使などは実際のスターリンに会うと小ささと弱々しさに驚いた。大衆にいかに自分が映っているかを非常に気にした。ずんぐりした体軀だったが、カメラを向けられると、二重顎を見せないようにした。

 スターリンはビッグスリーでは異質だ。チャーチルとローズベルトは生まれが裕福だが、スターリンは貧しい靴屋の息子だ。バリバリの労働者階級だ。

 ロシア正教の神学校で勉学に励むのもつかのま、革命に目覚めてしまう。とはいえ、金がない。金がなかったらどうするか。盗めばいい。不法に金を得ているやつらから盗んでしまえと、活動資金を得るために、銀行強盗でも売春宿経営でもやってのけた。

 銀行泥棒や売春宿経営の経歴を持つ指導者は有史以来、他にいないのではないだろうか。当然、捕まったり、流刑されたりするのだが、懲りずに脱走して、また非合法的な活動に手を染める。彼らにとっては革命のための活動であって、非合法ではないのだ。

 それらの活動は、ついにロシア革命として結実する。革命の立役者であるレーニンも、無鉄砲なスターリンを頼りにしていた時期があった。「君は鉄の男だ!」ということで、ロシア語で「鋼鉄の男」を意味する「スターリン」と名付けたほどだ。本名がヨシフ・ベサリオニス・ヅェ・ヂュガシヴィリと聞くと、スターリンの印象が全く変わるから不思議なものだ。

 ただ、名付け親のレーニンですら、次第にスターリンの粗暴さや冷酷さに危うさを感じるようになる(売春宿経営でもスターリンは娼婦に金をほとんど払わなかったため、そんな資本家みたいな真似は止めろとレーニンに怒られている)。