ネット右翼には自営業者・フリーランスが多い?
ではこのようなネット右翼は、実際にはどのような社会的属性を帯びているのか。
私が2011年にネット右翼1020人を対象に調査したところ、年齢では平均して38・15歳、男女比は75:25で男性が極めて多く、居住地ではその5割が首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)であり、最も多い職業は(1)自営業者、自由業者、個人事業者・フリーランス、(2)私企業や特殊法人における指導的な管理職、(3)会社員、公務員などで、その6割が「四大卒、大学院修了、又はそれらの中退」という30代後半の同世代にあっては相対的に高い学歴を保有していた。
また収入については平均して500万円程度であり中産階級である(詳細は拙著『ネット右翼の終わり』『ネット右翼の逆襲』を参照のこと)。
とりわけ1位の自営業者、自由業者、個人事業者・フリーランスという属性が注目に値する。現在日本では、約1億人超の成人人口に付き、所謂「サラリーマン」(勤労所得者)は増減はあるものの約90%弱を占める。自営業や個人事業者は、全体の1割強でしかない。
ネット右翼の社会的属性でとりわけ特性があるとすれば、彼らの少なくない部分がサラリーマンではなく、独立自営の零細経営や個人事業者であるという事実である。
丸山眞男は戦前の日本型ファシズムを支えた市井の人々を中間階級第一類と定義した。日本型ファシズムは軍におけるエリート(高級軍人)、政治家、財閥首脳部などが主導したが、それを支持した市井の民衆にはどのような特徴があるかを考えたとき、丸山は彼らを中間階級第一類と定義したのである。
中間階級第一類とは、自営商工業者、独立自営農民、工場における主任などの管理職、教員、下級官吏、町内会などの地域共同体における役員などの人々をさす。こういった人々が翼賛体制を無批判に受容し、支持していた主力であると丸山は評する。
一方、戦前の翼賛体制に懐疑的で戦争に反対する傾向があった市井の人々は、これとは別に中間階級第二類と定義された。これは大学教員やその関係者などのアカデミズム領域、報道関係者、高級官吏などである。
好むと好まざるとにかかわらず、私は自身の調査結果及び前編で詳述した永い経験により、驚くほどネット右翼が丸山のいう中間階級第一類に酷似していると感じる。中間階級第一類は「社会の下士官」と言い換えることもできる。
決してインテリではないが、社会における中産階級(中間階級)で、より生活に密着した領域で指導的立場を形成する。まったく社会情勢に興味が無いわけではなく、全く読書をしないというわけではない。これら社会の下士官が翼賛体制を「縁の下の力持ち」として支えた。
このようにネット右翼はエイやクジラの下をついて回る小魚であると同時に、社会属性としては「社会の下士官」として大都市圏において中産的な生活を送っている人々であり、決して貧困層ではない。