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田中 受験期って、子どもたちにとってとても重要な時期だと思うんです。今後の自分の人生と向き合う期間でもありますから。

 もし施設にいる間に受験を通していろんな成功や失敗を経験できれば、とても貴重な体験になると私は考えています。

 だからこそ、経済的な理由で進学を諦める子がいるんだったら、受験費用をサポートしたいんです。

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児童養護施設の中高生に講演する田中れいかさん(写真=本人提供)

利用者からは「もし複数受けられるなら受けたかった」などの声も

――一般的に、奨学金制度では受験費用までは支援されませんから、そもそもそれがハードルになって受験ができないケースもありますよね。実際に「ゆめさぽ」ではいくら給付しているんですか?

田中 1人あたり一律7万円です。これで私立大学の試験が2つ受けられる計算です。世間的には、受験費用に30万円くらいかけて10校とか受ける家庭もあるようなんですけれど、施設には複数受験という風土がまだありません。

 実際に児童養護施設から進学した子たちに聞いてみると「1校しか受けられないと思っていたから、かなり追い詰められていた」とか「もし複数受けられるなら受けたかった」などの声がありました。「じゃあサポートできないかやってみようか」という形で「ゆめさぽ」を立ち上げた前任者から、今は私が事業を引き継いでいます。

――子供にとって、受験は「成人するまでに体験する最も大きな戦い」のひとつになりますもんね。

田中 そうですよね。人によっては初めてのドキドキ体験です。

――田中さんは他にも社会的養護専門情報サイト「たすけあい」を運営されていますよね。

田中 はい、こちらは私が専任なので「たすけあい」の活動にも力を入れています。

 

「児童養護施設出身モデル」の活動を休止した理由

――以前はモデルとしても活動されていたと思いますが、今はモデル活動を控えているそうですね。

田中 そうですね。「児童養護施設出身モデル」というだけの発信の仕方にちょっとモヤモヤを感じるようになって。

 取材を受けるにしても、やはりネガティブな部分だけをずっと聞かれるんですね。施設に入った理由とか、孤独感があったこととか。私はどちらかというと未来志向なんですけど、ずっと「過去」を求められるのが疑問で。

 あとはメディアに出るようになると、他の被虐待経験者のエピソードと自分の経験を比べてしまうようになって。結局、メディアで好まれるのはひどい虐待の経験談で、私の場合はそういう方達よりも軽い経験だったので「だからメディアに出してもらえないのかな」と、若いがゆえに考えてしまったり。

「2018ミスユニバース茨城大会」で準優勝した経験も持つ(写真=本人提供)

――「メディアに出たい」という気持ちと「他人と自分の虐待被害の重さを比べてしまうこと」の間で葛藤があったんですね。

田中 そうです。なので、これ以上やると苦しいと思って、「児童養護施設出身モデル」は一度休むような形をとりました。

 活動再開をしたあとも、当時何が苦しかったのかを考えてみると「自分が経験したことだけを伝えようとするから悲しくなるんだ」と思って。取材を受けたとき、その記事についたコメントが全て自分を攻撃するものだと思っちゃって、苦しかったんですよね。

――確かに「当事者性」だけでメディアに出続けると、どうしても自分だけに攻撃の矛先が向いてしまいがちです。