田中 だから発信をするときにも、少し立場をずらそうと思い立ちまして。施設職員や社会的養護を経験した子、あるいは虐待を受けたけど施設には措置されなかった子たちの声をもっと聞いて、それを集約するといいますか、役に立つような形で発信することにしました。この方法なら、自分の経験だけで戦うわけじゃないから、私自身の負担が軽減されると思ったんです。
それから情報サイトやYouTubeを立ち上げて、あくまで私の経験というのは一言コメントに留め、児童養護施設に関するデータや社会構造の問題点などを紹介する形になりました。
子どもの言ったことを大人は信じてあげてほしい
――児童養護施設を取り巻く問題や課題、認知度を上げるための方向転換というわけですね。
田中 そうですね。発信を通して児童養護施設や制度のことをもっと知ってもらって、当事者で困っている方々が支援につながりやすくなったり、今いる環境から少しでも楽になることができればいいなと思っています。
――実際に虐待を受けたりしている子供たちは、周りに相談しづらいケースが多いと思うんです。そういう場合、周囲にいる大人たちが虐待の早期発見のためにできることは何かありそうでしょうか。
田中 なるべく普段から接点を作って、その子から話しかけてもらえるような信頼関係を作ることじゃないでしょうか。普通、知らない人に助けを求めたりはしないじゃないですか。
あとは、その子が言ったことを信じてくれる大人が周りにいてあげてほしいなと思います。いろんな子たちの話を聞いていていつも驚くのは「大人が信じてくれなかった」という言葉です。そういう大人ばかりではないですが、残念ながら子どもが言ったことより、大人が言ったことを信じる人がいるのも事実です。せっかくその子が勇気を出して助けを求めても、それがかき消されてしまう場合もあります。
真に子どもや若者が真ん中になる社会をつくりたい
――第三者が、親に「自分の子を虐待しているのか」と迫ったりするケースがありますよね。そうすると、子供にまた暴力の矛先が向いてしまうリスクもあるように感じます。子供自身も、それを恐れて誰にも言えなくなってしまう可能性も。
田中 そうなんです。だから大人は、まず子どもが言ったことを信じてあげて欲しいです。本当に虐待を受けているのか判断が難しい子もいるかもしれませんが、まずは信じた上で、よく観察したり見守ってあげるのがいいかなと思います。
あとは接するときに、子どもだからといって、下に見ないというのも重要ですよね。
――今後、田中さんがやりたいことや、展望があればぜひ教えてください。
田中 日本って、良くも悪くも狭い国なので、もう少し世界の社会的養護のあり方などを見に行って、日本の制度をアップデートするお手伝いをしたいと思っています。
今、こうした活動を通して東京都の会議に参加したり、国の会議に参加させてもらう役割を与えていただいているので、社会的養護に限らず、広く子どもや若い子たちが生きやすい社会づくりに向けて、さまざまな分野の大人に意見や要望を伝えていきたいです。
私自身、日本の社会的養護という仕組みがあったおかげで育ててもらうことができました。だからこそ、他の虐待サバイバーの方やヤングケアラーの方など、たくさんの方々と出会うことができたんです。これから先、政治家などの大人たちからも話を聞いたりして、真に子どもや若者が真ん中になる社会をつくりたいと思います。
撮影=末永裕樹/文藝春秋
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