木製といっても、欧州の棺のような頑丈なものではない。中国の棺は作りが粗雑で、飛行機の急降下や急上昇で遺体を損傷させることがあった。「もし腐敗が始まっている遺体が損傷すれば、棺の中には体液がたまり、下手をすると染み出してくる。それを防ぐため、遺体をビニール袋でぐるぐる巻きにするのが中国方式だった」とK氏はいう。
棺を故人のサイズに合わせて作り、送ってくれると嬉しい
それとは逆の意味で驚かされた棺もあったとK氏は話す。それはフィンランドの辺鄙な田舎から送還されてきた棺だった。急逝した日本人の遺体を送還しなければならなくなったのだが、地方の田舎町ゆえ日本人の体格に合う適当な棺が用意できなかったらしい。箪笥のようなものを再利用して、棺のようにしつらえてあったのだ。
「箪笥の取っ手みたいなものが、いくつもついていた。一生懸命に棺に作り直したことが見て取れた」(K氏)
遺体がぞんざいに扱われているような棺は、見ていて悲しくなるが、たとえ材料が箪笥でも、故人のサイズに合わせて一生懸命に作って送ってくれたことが分かると、同じ仕事をする者として嬉しいと、K氏は穏やかにほほ笑んだ。
海外から帰国した遺体は外国使用の棺から、火葬できる日本の棺に移し替えられる。遺体が収められていた棺は、産業廃棄物として処理する業者もあれば、サイズが大きく傷や臭いがついていない棺は、次の送還用に保管しておく業者もあるようだ。
遺体への尊厳をどこに求めるのか
遺体送還は国内でも行われている。この場合は火葬用の棺に遺体を納め、陸路なら霊柩車で運び、飛行機や船舶に載せて搬送する。海外から搬送された棺の話も驚くが、日本も棺をそのままポンと航空会社の貨物エリアに置いていく葬祭業者がいるという。しかも棺の蓋が釘付けされておらず、蓋がずれれば遺体が丸見えということもあるようだ。
「貨物エリアのスタッフだって気持ちのいいものではない。もしそれがガンで亡くなった遺体や黄疸のある遺体だったら、臭気はかなりきつくなる。蓋が緩むと臭気が漂い、スタッフの負担は大きいはずだ。ポンと置いていくような葬儀社は、遺体の尊厳など頭にない。そういう業者ほどゴルフバッグを航空便で送る時には、きちんとカバーをかけて送る。なのに遺体の棺にはカバーすらかけない」とK氏は憤る。
遺体への尊厳をどこに求めるのか。「遺体を粗末に扱う国では、その国の人々の命も軽く扱われているような気がする」とK氏は言った。