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実需という観点が欠落

 一見すると賢い方法のように映るが、この発想には実需という観点がものの見事に欠落している。投資をして賃貸用不動産を所有するということは、当然のことながらこれを運用していかなければならない。運用のノウハウもない多くの地主の不安に対して、アパート会社は賃料保証を謳い、アパート建設のメリットを強調してきたが、保証期間の短さ(約10年程度)、中途での保証料引き下げのリスク、保証継続にあたってのリニューアル等の工事発注の確約など過酷な条件が、一部で社会問題となっている。

 同じ地域、エリアにおいて複数のアパート会社の営業マンが複数の地主に対して同じような勧誘をする結果、短期間で多くの、同じような企画のアパートが建設される。結果としてエリア内での競合条件は厳しくなる。新築アパートができると、既存のアパートの住民が根こそぎ引っこ抜かれて、既存アパートには空室が大量に発生することが全国のいたるところで発生している。

 こうした結果起こるのが貸家における空き家問題だ。849万戸の空き家のうち、賃貸用の空き家は433万戸と、空き家戸数全体の実に半数を占めるに至っている。節税が目的化して、需給バランスに目を向けない貸家建設は、日本の住宅事情を歪んだ構造にしているのである。

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貸家=アパートがスカスカに

 相続における不動産の評価体系を改めないかぎり、目の前の対策で頭がいっぱいになった地主たちによるアパート建設は止まることがないであろう。アパート建設業者も、これまでの成功の方程式が通用する限りにおいては、どこまでもこの戦略を採用し続けるであろうことは想像に難くない。

 これから待ち受けるのが、老朽化したアパートとアパート内での空き住戸問題である。新築アパートが供給されるいっぽうで、需要側である若年層の人口は今後、さらに急減する。需給バランスが崩れることは、賃料の大幅な下落を招くことになる。空室率の上昇は、アパートのスラム化を促進する。空き住戸の多いアパートは住んでいても気持ちのよいものではない。治安も悪化する。住環境の悪化を嫌う住民は他の新しいアパートに移り、懐に余裕のない住民だけがアパートに残る。当然賃料の引き上げには応じられないし、応じる気もない。住民層も若年から、もはや世の中の動きから取り残された高齢貧困層などに替わっていく。

写真はイメージ ©iStock.com

 空き家問題の未来とは、メディアが説得力があるなどの理由で取り上げてきたボロボロになった一軒家やごみ屋敷状態の家の問題だけでなく、ひたすら造り続けている貸家=アパートがスカスカになっていく空きアパート問題でもある。