分譲マンションの空き住戸問題
空き家問題でクローズアップされるのはアパートだけではない。特に今後、新たな社会問題になってくるのが分譲マンションの空き住戸問題である。分譲マンションストックは2021年末で686万戸に達している。住宅総数が2018年で6240万戸であるから、日本の住宅の約1割がマンションということになる。
民間で初めて分譲されたマンションは、1956年、東京都新宿区四谷本塩町に建設された四谷コーポラス(2019年に建替え)だが、以降67年にわたって供給、分譲されてきたマンションに、これから大きな社会問題が続出する可能性が高いのだ。
何と言ってもマンションは戸建て住宅に比べて、管理が圧倒的に楽だ。立地も都心部や、郊外でも駅に近い物件が多かったことから、特に90年代半ば以降の都心居住の流れに乗って人気を博するようになる。夫婦共働きがあたりまえになると、どうしても家を留守にしがちになるが、マンションは密閉性が高く、戸建て住宅に比べて安全性が高いことも高い評価を得ることにつながった。
ところがいっぽうで、マンションの歴史も60年を超えるようになってくると、あらたに勃発したのが、建物の老朽化問題とマンション住民の高齢化問題だ。マンションはその多くが鉄筋コンクリート造、または鉄骨鉄筋コンクリート造である。コンクリートの耐用年数は一般的には50年から60年はあるとされるが、築50年を超えるマンションが出現するにつれ、建物自体の建替え問題が生じている。
建替えられないマンション
また旧耐震建物で供給されたマンションの戸数は、マンションストックのおよそ15%にあたる100万戸を超えるが、現在までの間に建替えが実施されたのは、このうちの1%程度にすぎない。建替えられないのである。
原因はおカネと人の問題である。マンションは毎月積み立てる修繕維持積立金によって管理される。ところが、多くの管理組合で、建物の老朽化が進むと十分な修繕を行うのに必要な金額を用意できなくなる。マンション住民の間に経済格差が広がり、多額の費用がかかる大規模修繕や、建替えに伴う追加の負担金に区分所有者の一部が耐えられなくなるのだ。
さらに、問題をややこしくしているのが、区分所有者の相続問題だ。築年数の古いマンションほど住民である区分所有者も高齢化している。そして相続を迎えたとき、相続人がマンションを引き継ぎたがらない事態が、現在多くの築古マンションで発生し始めている。都心一等地などに建つマンションならいざ知らず、郊外などにあって資産価値が減退しているマンションは、相続しても相続人本人が利用しない限り、売却や賃貸もままならないものになっている。したがって相続人が、毎月の管理費や修繕維持積立金を支払うのを嫌って、相続登記をしない、マンション管理組合に届出しないという事例が頻発している。