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母親から突然「こんないやらしい漫画を読むなんてガッカリだわ」と罵倒され…貧困・虐待家庭で育った私の“複雑すぎる母子関係”

『機能不全家庭で死にかけた私が生還するまで』より #2

2023/05/26
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 実際、私の目から見ても母親は本当に頑張っていたと思います。父親が仕事を辞めたり兄が暴れて金を脅し取ったりするおかげで家の貯金が底をついても、母親は必死に家計をやりくりしようと努力していました。

 だからこそ、自分以外の誰かがつらそうにしているのを見ると、「私ほど家族に尽くしてもいないし、苦労もしていないくせに」と自分の苦痛を否定されているように感じたり、なおざりにされているような気持ちになるのかもしれません。

入院手続きも母親を頼らず1人で

 私が扁桃周囲膿瘍という、扁桃腺のなかで細菌感染が起こり膿が溜まる病気にかかったことがありました。扁桃腺が気道を塞ぐほど大きく腫れ、あまりの激痛で食事はおろか水や唾液すら飲み込めず、口が開けないため声が出せない状態にまで悪化してしまったのです。

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 そのとき、別の部屋にいた母親に「喉が腫れて、痛くて声が全く出せない。病院に行ってくる」とメールを送ると、母親は私がいる部屋にドタドタと飛んできて、「また当てつけ!? 同じ家にいるのにメールを送ってくるなんて信じられない、本当は大したことないくせに」と私を罵ったのです。

 そんな母親に構っていられるほどの余裕がなかった私は、悔しさや悲しさから涙を浮かべながら1人で病院へと体を引きずって行き、医師は私の喉を診た瞬間に「これはすぐに入院です。手術が必要でしょうね」と総合病院の紹介状を書いてくれました。

 そもそも母親に頼る気がなかった私は「入院になったので数日、家を空ける。あとで荷物を取りに一度帰る」とメールを送り、無駄な出費(医療費)がかかることを極度に嫌う母親からの攻撃を未然に防ぐために、入院などにかかる費用は奨学金の振り込まれる口座から捻出するので家計に迷惑をかけない旨を伝え、1人で入院手続きを進めました。

周りの人間を全否定していたのは、自分の元にとどめておくため

 するとこのときばかりはばつが悪かったのか、母親は気まずそうに「できることがあれば言ってね」と声をかけてくれたり、着替えを持ってきてくれたりしました。

 私が母親を嫌いになれなかったのは、こうした気まぐれな優しさの積み重ねと、自分が幼いときに母親が向けてくれた笑顔が忘れられなかったこと、そしてくりかえし傷つけられたことで歪んでしまった愛着関係に、母親から与えられるはずだった母性に、大人になってなお執着し、補完しようとしていたからかもしれません。

 母親は本当は優しい人だ、そして自分を愛してくれている。ただ、精神的に疲れて余裕がないだけなのだ。

 そう信じることだけを精神的な支えとして、私はこれまでの人生を送ってきたのだと思います。

『機能不全家庭で死にかけた私が生還するまで』(晶文社)

 そして母親は母親で、娘である私を唯一の心の拠り所としていて、まるで自分の分身であるかのように、家庭の中で受ける苦痛やストレス、悲しみ、絶望を共有することを私に強く望んでいたのです。だからこそ、いつも私の行動すべてを把握して、少しでも自分から遠ざかるような気配を察知しようものなら、私や私の周りの人間を全否定することで、自分の元にとどめておくよう手綱をきつく握っていたのでしょう。

母親から突然「こんないやらしい漫画を読むなんてガッカリだわ」と罵倒され…貧困・虐待家庭で育った私の“複雑すぎる母子関係”

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