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 その先に現れたのは「性癖」だった。

「食欲に睡眠欲、物欲と、人間にはいろんな欲望がありますけど、最大かつ究極の欲望といえば性欲じゃないですか。いくら快眠しても満腹になったって、それだけじゃ子孫をつないでいけませんから。

 自分の欲望の根っこに性欲があるとして、その性欲がどこへ向かうのかの舵取りをしているのは性癖なんです。この性癖というものは大小あるにせよ、誰もが持っている。私は自分の性癖を改めて見直していきました。性癖なんて、どんな親友とだって語り合ったりしないタブーだと思いますが、そこに命の本質は表れるんじゃないかと思うようになったんです」

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『はじめて あった』より

「はっきりしたのは自分の性癖はパンティ、下着です」

 そこで自分の性癖を見極めようとしてみると、ひとつの傾向が浮かび上がってきた。

「はっきりしたのは、自分の性癖はパンティ、下着だということ。匂いや、感触等の五感の中でも自分は視覚から入ってくる刺激に強く反応していたんです。巨乳だとか、お尻だとかではなく、裸の肉体の一番近くにある下着、パンティという布切れの色や柄が大きな装置だったんです。前作写真集『そこにすわろうとおもう』では『肉とはなんぞや』を追求したくて大勢の肉体の絡みを撮影したのですが、じつは真っ裸の女性よりもわざわざパンティを穿いてもらった状態のほうが、燃えたぎるものを感じていた。

 女性の身体から放出されるエネルギーと、自分という生命体のエネルギーのあいだに、色柄の付いたパンティという存在が挟まることで、いっそうの興奮が生まれる。ストライプにドット、ラメや蛍光色……。パンティにはそれぞれ物語があり、人格すら宿っていて、そのパンティが、個性を持ちその日の気分のエネルギーを発散する女性の肉体に張り付いたとき、女性の肉体のエネルギーとパンティの人格が混ざり合い化学反応を起こして、見たこともない野生生物がそこに現れるんです。いったいなぜこんなことが起こるんだろう、いったい何がこの瞬間に起こっているんだろうと、この現象に驚きました。

 それで下着をつけている女性やパンティそのものを日々、撮影していきました。写真集に載っている布をコラージュしたような写真は、ある日の自分を燃え上がらせたパンティを集めて『欲望の絵』を描いたものです。真ん中にある赤のボーダーのパンティが、その日いちばん長く燃えた柄で、いわば主役です。外側にいくに従って燃度が低く、出番が少なかったものとなります。登場の順番やよぎった回数も細かく関係しています。こうして見ると相手には、めちゃくちゃたくさん穿き替えてもらっていました。付き合ってもらうのはたいへんだったと思います」