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「彼女の役回りと言えばいつも、のび太を応援するばかり」ドラえもんのしずかちゃんに見た「日本のジェンダーバイアス」の呪縛

『ソーシャルジャスティス』 #1

2023/05/27

source : 文春新書

genre : ライフ, 社会, ライフスタイル

note

無意識のジェンダーバイアス

 料理がうまく可愛いといった古典的な母親のイメージと、キャリアと専門性を持つ女性のイメージが、両立できないという認識が社会の中で無意識に持たれていることに気付かされる発言でした。また、父はお弁当を作るお父さんとして賞賛され、私も父のお弁当を学校に持っていくのを誇りに感じていましたが、「もしママがお弁当を作っていたら、同じように賞賛されることはない」と父に言われ、自分自身が抱えていた無意識のジェンダーバイアスに気付かされ、ハッとさせられました。

 私はハーバード大学の医学部の学生を教えていますが、ハーバードメディカルスクール(医学部)の2021年入学者は6割が女性です。私が在籍した北海道大学の医学部では1学年100人中女性は15人のみでした。

著者の内田舞さん。北海道大学医学部時代は、女性蔑視な発言を頻繁に目の当たりにしたという(写真:本人提供)

 当時、医学部の同級生からは「日本の少子化を止めるには女性が外で働かないという選択をするしかない」「医師は体力勝負だから女性には向かない」「本気でキャリアがほしいなら家庭を持つのは諦めた方がいいと思う」と言われることが日常茶飯事で、また風俗や他の女子大学などの女性との武勇伝のようなものを聞かされることが頻繁にありました。

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 この話をハーバードの医学生にすると、ハーバードでそのような発言をした場合、退学になる可能性もあるのではないかと男子学生が発言し、「看護師は医師以上に体力勝負かもしれないが、女性でいいのか?」と論理のねじれを指摘する学生もいました。また、学生時代は知りませんでしたが、3児の母となった今私がこの同級生たちに言いたいことは、本当に「体力勝負」なのは、医師の仕事よりも家事・育児だということです。彼らの論理でいくと、体力がある男性がもっとやるべきなのは家事・育児なのではないでしょうか。

 私の願いは何より、医師として患者さんのためになりたいということでした。研究者として病気の原因を追究し、よりよい治療法を探し、患者さんの回復に貢献したい。そういったキャリアに向けた希望と同時に、幸せなパートナーシップ、そして愛ある家庭を築きたいという希望を持っていました。しかし、日本社会での女性観を目の当たりにした私は、流れに乗って「普通」に日本で生活していたら、その両方を手に入れるのは非常に難しいと感じました。

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