「男の子なんだから泣いちゃダメ」「男の子だからそんなのはできて当然」――何気ないフレーズが、男性を苦しめている可能性も……。男性たちの心をむしばむ「有害な男らしさ」とはいったい?

 ハーバード大学准教授で小児精神科医・脳神経科学者の内田舞さん初の単著『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/#1#2を読む)

強くなければ、男じゃないのか? ©getty

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「有害な男らしさ」の呪縛からの解放

 無意識のジェンダーバイアスは男性をも苦しめます。「男の子なんだから泣いちゃダメ」「男の子だからそんなのはできて当然」「男は一家の大黒柱にならなければ」といった何気ないフレーズでも、幼い頃より同じテーマの言葉をかけられる度に「男の子はこう」という固定観念が植え付けられていきます。それは子どもたちの可能性を狭めるだけでなく、心理的に傷つけている場合もあるのです。

 この数年、アメリカメディアでは長い歴史の中で「男とはこういうもの」と印象づけてきたことの悪影響を考え、「有害な男らしさ(Toxic Masculinity)」の呪縛を次世代に引き継がせないために、メディアを通してどのような男性像を映し出すべきかといった議論が盛んにされています。

 例えば、高視聴率を獲得した2019年のナショナルフットボールリーグ(NFL)最高峰のスーパーボウルの中継で、髭剃りメーカー、ジレットのCMが話題になりました。CMの前半には今まで男性が笑って見過ごしてきたセクシャル・ハラスメントや暴力のシーンが次々と映し出され、“Boys will be boys.”(男とはこういうものだから仕方がない)というフレーズが流れますが、そこにジレットのキャッチフレーズだった“The Best a Man Can Get”(男のためのベストのもの)をもじって“Is this the best a man can get?”(これが男としてベストなのか?)と視聴者に疑問が投げかけられます。

 そこからいじめられている男の子を助ける男性、暴力を止めに入る男性、女性蔑視的な発言をする男性に「やめろよ」と声をかける男性、そしてそんな大人の男性を見ている小さな男の子の姿が映し出されるのです。これからの男の子たちが男らしさの呪縛から解放されて育つために大人の男性がどのようなロールモデルになるべきかといったことを示唆する、未来に向けて希望を感じさせる感動的なCMでした。