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立地環境はイマイチなのにタワマンが売れている…“夫婦ダブルローン”の未来が不透明なワケ

2023/05/30
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うまいことが続く金融商品など…

 でも聡明な読者の皆様はもうお気づきだろう。そんなにうまいことばかりが続く金融商品など世の中には存在しないことに。まずこの商品、当然だが元本保証ではない。売却価格が相場に左右されるのは株式と同じだ。しかし株式のような即日で売却(損切)できる流動性はない。相場が悪くなると一斉に売りに出すのは株式と同じだが、商品単価が高いので売りづらい。つまり相場が下がり始めると、あれよあれよと下がっていくのを呆然と見つめることになりかねない。さらにこの商品は年数を経過していく中でどんどん劣化していく。建物は古くなり修繕費用が嵩む。周囲に競合する建物(商品)がたくさんでてくるので競合はますます激しくなる。当初はあったレアもの感なんてすぐになくなる。商品価値を維持するのは意外と難儀なのだ。また自分が住んでいれば保有期間中の運用益はない。いっぽうで管理費と修繕維持積立金という信託報酬的な費用は毎月容赦なくかかってくる。

 相続での節税効果については税務当局による締め付けが始まった。階層による評価基準を変える、著しく相場とかけ離れた評価額にはメスを入れるなど、基準はどんどん(厳しいほうへ)変化している。そしてこの節税効果を享受するにはオーナー本人が死んでくれなければならない、という全くもって理不尽な前提でできあがった商品だ。

「パワーカップル」の未来は

 金融商品は金利の変化には敏感だ。株式でもそうだが、思い切りレバレッジ(借入金による取得)を利かせすぎると、いざ相場が下がり始めたときに対応できなくなる危険性が増す。株式よりも流動性が低い不動産にはつらい仕打ちとなる。

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 もう一度整理しよう。タワマンは金融商品である。今まではかなり高いパフォーマンスを示してきたので、トクをした人が多い。だがどの金融商品でもそうなのだが、これまでの成功がこれからの成功を約するものではない。ましてやタワマンを金融商品と思わないで買ってしまった、つまりずっと住み続けようとして、夫婦ダブルローンなどという、人生を金融機関に売り渡してしまったような過酷なレバレッジをかけて手に入れてしまった通称「パワーカップル」の人たちの未来はとてつもなく不透明なものと言わざるを得ない。

 金融商品への投資は自己責任です。取扱説明書をよく読んで失敗しないように気を付けてお求めください。

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牧野 知弘

文藝春秋

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立地環境はイマイチなのにタワマンが売れている…“夫婦ダブルローン”の未来が不透明なワケ

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