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番記者に漏らした“気弱な心境”

 コロナ対応への批判も高まり、8月16日の電話では珍しく、こんな気弱な心境を吐露していた。

「日本は、『こいつは叩ける』と思った途端、みんなで襲いかかるような国になってしまった。いつからこんな国になってしまったのか。本来の美しくて優しく、しなやかな日本を取り戻したかったのに……」

 今振り返ると、翌17日こそが、安倍が退陣に大きく傾いた日ではなかったか。東京・信濃町にある慶應大学病院に検査で約7時間半も滞在。マスコミが殺到し「退陣間近」との憶測が飛び交った。

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「あまり私を煽らないで」と…

 その夜、安倍はこう語った。

「今日、検査に行ってきたが症状が悪かった。実は、新しい薬があるそうで、これが効くかどうか。明日一日よく考えてみる」

 新しい薬とは生物学的製剤と呼ばれる「レミケード」のことであり、検査後に2時間半にわたり点滴で投与していた。

©文藝春秋

 安倍の声は極めて不安げだった。私は思わず、退陣を思い留まるべきだと直言した。

「あまり私を煽らないで。今日は睡眠剤を飲んで、よく眠ることにするよ」

 安倍は、それだけ言うと電話を切ってしまった。すぐさま、激しい反省の念が込み上げてきた。

 13年前、安倍が退陣の可能性をほのめかした際、私は内閣改造を断行すべきとの意見を伝えた。それがかえって安倍の悩みを深めたようで、明らかに記者の領分を踏み越えた発言だった。以来、自分を「私は当事者ではない。一記者に過ぎない」と戒めてきたはずだった。