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 また夜更かしがちだった習慣を改め、夜には携帯電話を別室に置き、定期的にジムで汗を流す生活を心掛けた。国会の会期中以外は首相公邸ではなく富ヶ谷の私邸に帰宅するようにし、夏季休暇は河口湖の別荘で友人たちと過ごすなど、意識的にオンとオフの切り替えに腐心した。

 腸の天敵はストレスであり、働き詰めだった第1次政権時代の教訓を踏まえた。

 だが、8年近くに及ぶ長期政権を運営する中での負担が知らず知らずのうちに安倍の体調を蝕んでいた。さらには2020年1月以降、新型コロナという未知のウイルスへの対応に追われるなど、前例のない難題が追い打ちを掛けた。

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人間ドックで異常な数値が

 6月13日の人間ドックで炎症を示す異常な数値が出たことで、医師から「秋に再検査を」と告げられ、7月中旬には安倍自身が持病の再発を明確に自覚する。一気に食が細くなり、体重が誰の目にも明らかなほど落ち始めた。重病説が流れ出すのもこの頃からだ。

 7月22日、安倍は、ステーキ店「銀座ひらやま」で自民党幹事長の二階俊博、ソフトバンクホークス会長の王貞治らと会食した。安倍は大の肉好きで、普段はTボーンステーキをペロリと平らげる。

トランプ大統領夫妻との会食 ©JMPA

 だがこの日は、野球談議に花を咲かせる二階や王の笑い声に合わせながら、密かに肉をサイコロ状に小さく切るよう店主に依頼していた。7月30日には政調会長だった岸田文雄とパレスホテル内の日本料理店「和田倉」で食事をしながら政局について幅広く意見を交わす予定だったが、1時間半で早々に切り上げている。

「13年前の退陣と酷似している」

 安倍は焦燥感を募らせた。8月6日の原爆の日に広島平和記念式典で記者会見に臨むが、広島空港や会見直前のトイレが異様に長く周囲を心配させた。翌日には足取りの重さも指摘される。もはや限界だった。