ファンからは「将棋の強いおじさん」として愛され、7度の挑戦の末、46歳で悲願の初タイトルを獲得したことでも知られる木村一基九段(49)。何度挫折を味わっても立ち上がる「百折不撓」の棋士である木村は、順位戦でB級2組まで降級したものの、知命を迎える年に「鬼の棲家」と称されるB級1組へ再び舞い戻ってきた。
順位戦昇級の舞台裏やこれからの目標について聞いた。
挑戦失敗したことでメンタルが崩れていたのかも
――改めて、木村九段にとって順位戦とは?
木村 長い期間のリーグ戦ですが、1局1局を勝っていくことの積み重ねなので、先のことを考えても仕方がないというのが経験上、わかっています。前期も同じで、慌てずにという感じですね。
前々期にB級1組から落ちた時は、早い時間に負けることが結構多かったです。王座戦で挑戦失敗したあたりからそういう傾向になっていったのですが、理由がわかりません。挑戦を失敗したことで、メンタルが崩れていたのかもしれません。持ち時間を残して負けるというのは以前なら考えられないことで、1局だけならまだしも、2局3局続くと、自分がおかしくなっていることは感じますね。そして同時に降級もちらついてきました。
中田九段が亡くなったことを飯島戦の翌日に知る
――ですが、B級2組に降級してからすぐにB級1組へ復帰されました。前期に復帰を意識されたのはいつ頃ですか。
木村 順位戦は6月から翌年の3月にかけて行われますが、年末の時点で昇級の目が残っているかどうかで正月の過ごし方がだいぶ変わってきます。前期に関しては年明けの3局を全部勝てば昇級だったので、意識していました。
ところが、1月の対局では北浜さん(健介八段)にうまく指されてダメだなと。ですが終わってから、残り2局を連勝なら昇級だと知らされて。そして最終戦を戦う中田さん(故・宏樹九段)の休場が発表され、2月の飯島さん(栄治八段)との将棋で勝てば上がりが決まる状況に。そうなるとより意識は強くなりますね。
――中田九段が亡くなられたのは木村-飯島戦の前日で、中田九段の弟弟子である飯島八段にはその時点で知らされていたそうですが、対局当日に何かしらの雰囲気などは感じましたか。