ファンには将棋を長く楽しんでもらいたい
――いまや藤井竜王を倒さないとタイトルが取れないという状況ですが、木村九段のデビュー当初は、羽生九段が同じ対象だったのではと考えます。
木村 私は「羽生さんを倒さないとタイトルを獲れない」とは思わなかったですね。なぜかというと四段になるのがやっとでしたから。すぐにタイトル戦に出られるなんて思っていません。この世界で何十年やっていけるかということばかり考えていました。研究会での羽生さんは感想戦が熱心で、対局時間より長いのもざらでした。第一人者になってもこれだけやらないといけないのかと、若手時代にその姿勢を知ることができたのは大きかったですね。
――これからの棋界についてはどのようにお考えですか。
木村 注目される機会が増えましたので、その状況が続けばと思います。欲を言えばファンに将棋を指してもらいたい、長く楽しんでもらいたいと思います。大盤解説会などに集まるファン層を見ると、ルールをご存じない方が増え、女性率も増えました。幾度も解説会場に足を運んでくださった結果、多少なりとも将棋のルールも覚えてもらえたのかなと。ルールを覚えたきっかけで、さらに旅行がてら、あちこちに見に行っていただけるのであれば、将棋を招致してくださった現地の方のためにもなるのかなと思います。
ファンからは「最後最後詐欺」と言われることも
――木村九段ご自身について、今の目標はありますか。
木村 順位戦でB級1組に残留したいという気持ちはありますが、形のある目標はないですね。順位戦は厳しいものになるだろうなという予感があります。やはり1回落ちたという事実は消せないんです。上り調子の棋士が昇級候補になるのならば、降級経験者はその逆ですね。
――降級からの復帰は、逆境を克服したと見ることもできるのではありませんか?
木村 そういう見方をする棋士は、少なくとも今期のB級1組にはいないでしょう。順位戦だけでなく、過去の信用は当てにできない世界です。他棋戦でも本戦に出たいという思いはありますが、さらに上の舞台となると一局一局の積み重ねですから。これは今までもそう思っていました。
――木村九段が檜舞台に立つたびに「年齢的にはこれが最後」と語ることが続いたので、「最後最後詐欺」だなんて言われることもあり、それを繰り返すことを望むファンは多いです。
木村 そうありたいのですが、まだまだ課題は山積みですね。
写真=橋本篤/文藝春秋