――最近はより、プロの対局が将棋ソフトで評価されるようになってきました。
木村 その結果として、見られ方が変わってきましたよね。例えば、自分が指した会心の一手が取り上げられることがほとんどなくなりました。どうしても数字が下がる悪手に目がついてしまいます。私が子どもの頃はプロ棋士がアマチュアの人が驚くほどいい手を指して、お手本になっていました。ところが今のプロ将棋は悪手を指した時の数字の変化が目立ち、そこだけが注目されるようになったと思います。
なんでもスレスレで行くという、私の一番得意な分野が…
――他に、見られ方が変わったと考える部分はありますか。
木村 なんでも動画で残るものが多くなりましたよね。だから大盤解説会などでも、その場の雰囲気で適当なことが言えない、言葉には気をつけないといけなくなっちゃった(笑)。それが悪いことではありませんが、まったく関係ない別の場所で動画を見られると、ニュアンスが異なって受け取られ方が変わる可能性があります。とはいえそれで委縮すると面白くない。なんでもスレスレで行くという、私の一番得意な分野がそがれてしまいましたね。
――対局や感想戦が動画中継されることに関してはいかがでしょうか。
木村 特に変わるということはありませんけど、多少は話す言葉を選ぶようになりますね。ただ動画があるから、本来なら感想戦で話すはずの変化をしゃべらなくなるということはありません。
羽生善治九段の最近の勝ちっぷりには「すごい」の一言
――現在の将棋界についてうかがいます。盤上では藤井竜王が無双と言っていい状態で、また盤外では羽生善治九段が理事選に立候補して、日本将棋連盟の会長就任が確実視されています。
木村 羽生さんが理事に立候補したのは、直前まで知らなかったのでビックリしましたね。盤上でも最近の勝ちっぷりには「すごい」の一言です。もっとも本人にとっては普通かと思っているのかもしれませんが。
――木村九段は羽生九段と長年研究会を行っていることが知られています。
木村 私が五段の頃に始まりました。当初は羽生さんの他、森下さん(卓九段)、松尾さん(歩八段)というメンバーで、1ヵ月~1ヵ月半に1回というペースで行われていました。メンバーの入れ替わりを経て、羽生さんと私、青嶋さん(未来六段)、杉本さん(和陽五段)となっています。