プロ棋士がシビアにランク付けされるのが順位戦だ。新たに始まる第82期順位戦でB級1組の12位にノミネートされているのが木村一基九段(49)である。
木村が悲願の初タイトルである王位を獲ったのが2019年。さらなる栄光への道を進むかとも思えたが、そこに立ちはだかったのが新世代の王者、藤井聡太だった。虎の子のタイトルをわずか1年で明け渡し、さらには順位戦でもA級からB級1組、さらにはB級2組へ落ちる屈辱も味わった。
だが、木村はあきらめない。2021年にはまたもタイトル戦の舞台に立ち、さらには知命を迎える年に「鬼の棲家」へ再び舞い戻ってきた。「不撓不屈」の精神に迫ってみたい。
まさか本当に来るとは…とんでもない誕生日プレゼントとは
――文春オンラインで木村九段にお話をうかがうのは、2019年に王位を取られた直前以来の2度目となります。まず、王位を獲得されてから、現在に至るまではどのようにお考えですか。
木村 月並みな表現では、浮き沈みが激しい、ですよね。タイトルを獲って、取られて。順位戦では落ちて、また落ちて、それから上がった。でも以前と比べても実質は何も変わっていない気がします。しいて言えば、成績が落ちた時に「タイトル経験者」と言われるようになったくらいでしょうか。そう言われるのも人それぞれの見方ですから、あまり気にはしていません。
――2020年の王位防衛戦には、藤井聡太七段(当時)が挑戦者として名乗りを上げました。
木村 当初は冗談で「来るかも」と言っていた程度でしたから、まさか本当に来るとはというのが正直な気持ちでしたね。藤井さんの評価も今とは違いますし、王位リーグには他にも有力な挑戦者候補がいました。挑戦争いに食い込むんだろうけど、本当に出てくるとまでは予想しませんでした。永瀬さん(拓矢王座)と挑戦者決定戦を戦っていましたが、実はその日が私の誕生日で、とんでもないプレゼントでしたね(笑)。
一番の悔いは1局も勝てなかったこと
――実際に盤を挟んでみて、わかったことなどはありますか。
木村 藤井さんがよく考える人だとはわかりましたね。初めての2日制対局でも湯水のように時間を使っています。ちょうどコロナ禍が始まった年で、タイトル戦のあり方も大きく変わった時期でした。私にとってはそちらの方がより印象に残っています。まず前夜祭が行われなくなり、そして対局場についてからは終局まで一人で過ごすことが多くなりました。