木村 順位戦で復帰できた理由もわかりませんが、1年前になぜ落ちたのかは言えます。周りの棋士の研究が増えました。こっちの量も以前と比較して変わってはいないのですが、相対的に少なくなりましたね。
他者の凄さを認めることは自分の弱さを認めることでもある
――現在の充実した若手棋士の研究についていくのは難しいのでしょうか。
木村 ついていっている人はいるので何とも言えませんが、年々きつさは感じますね。そのきつさがどこにあるのかは体力、やる気など、人それぞれでしょうが、私の場合は記憶力です。
――そうなのですか?
木村 記憶力が悪くなっているのを自覚するんですね。必要なことを思い出すための時間がよりかかっていることを、この2~3年ではっきり感じるようになり、ストレスになっています。
――医学的見地での改良手段などを模索されたことは?
木村 それで防げるならば何とかしたいと思う人はいるでしょうね。まあでも、私の場合は酒だな、いい理屈がないですものね(笑)。禁酒できるかどうかということですが、うまくいかないときに気持ちを和らげる効果はあったから、仕方がないと思うこともありますね。
酒に限らず、どんな環境でも集中できている後輩を凄いと思うことは多くなりましたが、それではいけないと考えることもあります。他者の凄さを認めることは自分の弱さを認めることでもあるので、そういう部分でも自分が一番だと思えるようでなくてはいけませんね。
――お酒と言えば、木村九段は将棋世界誌で掲載された「昇級の記」で、尿管結石を患われたことについて触れられていました。
木村 そちらについては、完治しました。ただ前より飲めなくなりました、というよりはちょこっと飲んだら満足するようになったという感じですね。
降級枠増設を反対した理由とは
――昇級の記で私が驚いたのは、木村九段が数年前に順位戦の規定が改訂された時、B級1組からの降級枠が3つに増えることに反対し、そのことを公言されたことです。自分の損になるから反対したのだろうと言われかねない状況での反対を公表したことにビックリしました。
木村 順位戦の規定変更は決まった話で、誰かを批判するつもりはありません。ただ反対したことを残しておかなければいけないと考えました。埋もれてはいけないと今でも思っています。私の反対は少数意見でしたから過半数の支持を集めることはできませんでしたが、自分が考えを持っていることを示したいと思ったんですね。伝え方で誰かを批判したり、傷つけるのはよくないので、昇級の記であのような機会に書くしかなかったです。
――降級枠増設を反対された理由とは?