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転職の意向を伝える直前に機密持ち出しを決意

かっぱ寿司を運営する「カッパ・クリエイト」の入居する横浜ランドマークタワー Ⓒ時事通信

 田辺被告は岩手県出身で、大学卒業後に新卒でゼンショーに入社。ゼンショーでは、はま寿司など複数の飲食店で働き、20年2月に「グローバルSUSHI事業推進本部長」という幹部ポストを得た。だが就任してすぐの6月には上司への不満を理由に転職活動を開始している。外食産業の幹部経験者は転職市場で評価が高いという。8月にはカッパ・クリエイト副社長というキャリアアップのオファーを勝ち取り、ゼンショーを退職することを決めた。

 この順調な転職活動こそが、田辺被告が犯行に手を染めてしまった原因になる。はま寿司の機密持ち出しを決意したのは、転職活動を終えてわずか3日後、ゼンショーに転職の意向を伝える前だった。自社の原価データを送るように部下に指示し、社員が汗を流して得た「販売戦略が凝縮された」データを手に入れる。1カ月後、社内に転職を伝え、秘密保持の契約を結ぶ際、会社支給の携帯電話とパソコンの返却を求められると「本日中の返却はできない」と先のばしを願い出て、いそいでその翌日には、USBメモリにデータを保存した。心機一転、かっぱ寿司に移籍すると、「はま寿司の商品データを持っているので参考までに見てください」とかっぱ寿司幹部にデータを送付。その後、商品開発の現場にも共有されていくことになる。

はま寿司HPより
かっぱ寿司HPより

「日次売上データ」を渡した女性とは親密な関係

 実はこの事件の背後で、もう1つある“疑惑”も生まれていた。ゼンショー関係者が話す。

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「結局不起訴にはなりましたが、11月に田辺被告ははま寿司の『日次売上データ』をはま寿司の30代女性社員から受け取ったとして、女性と共に書類送検されています。この“疑惑”が明らかになった際、ゼンショー内で社内調査が行われたのですが、その時に田辺被告と女性が親密な関係にあったことも同時にバレてしまったのです。女性は社員教育を担当する部署に所属しており、様々なデータを閲覧できる立場にありました。田辺被告は役職上、海外への出張も多かったのですが、その際に相手の女性が同行することもあったといいます。女性は既に疑惑の責任を取るかたちで、はま寿司を退職してします」

 ゼンショー本社にも疑惑について問うたところ「田辺氏と女性の個人間の関係への言及は差し控えさせていただきますが、当該女性については、上記の秘密情報を漏洩させたことにより社内規程に則り処分しています」と回答があった。機密の漏洩というすぐれてビジネスライクな犯行の裏には、ありふれた男女の機微があったのかもしれない。

「田辺被告は一度学生結婚をしていて20代のうちに離婚。その後、今の奥さんである女性と社内結婚で再婚しましたが、その後も別の女性と親密な関係になるとは……家庭のほうがうまくいってなかったという噂も社内では根強くありました」(同前)