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ベラルーシ政変のシナリオ

 高橋 目新しかったことを挙げると、旧ソ連諸国の首脳たちが大集結したことでしょうか。

 小泉 そうですね。当初はキルギスのジャパロフ大統領しか出席が予定されていなかったのが、直前になってプーチンが「やっぱり皆来い」と大号令をかけたら、関係が悪化しているアルメニアまで参加を表明した。この集まり方がすごく鮮やかで、ロシアの動員力を感じました。

 高橋 普通なら、首脳の日程をここまで短期間で変更するのは難しいですけどね。

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 小泉 普通は出来ないですよ。つまり、いかに旧ソ連諸国の首脳たちが仕事していないのかが垣間見えたという(笑)。

 高橋 参加者のなかでは、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、かなり体調が悪そうでしたよね。

 小泉 一番驚いたのは、献花の場面でしたね。赤の広場の近くに「無名戦士の墓」があって、そこまで300メートルほど歩いて向かうことになっているのですが、ルカシェンコは一人だけカートに乗っていました。パレード後の食事会も欠席して帰国しましたし、自国の戦勝記念行事でも、声が出ないのか、国防相が代わりに演説をおこなっていた。ここまで体調が悪いのかと、ちょっとショックを受けましたね。

 高橋 ルカシェンコは3月に訪中、習近平と会談しましたが、当時の映像では元気そうでしたけどね。

 小泉 ここ最近、容体が急変したのだと思います。マスコミの報道だと、空港に戻るルカシェンコの公用車に救急車が付き従っていたとのことでした。恐らく、なんらかの緊急事態に備えてのことだったのでしょう。ルカシェンコももう68歳ですから、いよいよ年齢には敵わなくなってきたのだなと感じます。

ルカシェンコ大統領 ©時事通信社

 高橋 半年前、とある国の人たちと議論していた時、「ベラルーシ政変シナリオ」が話題になりました。ルカシェンコの体調不良が政変につながるかは、あまり性急に議論すべきではないと思いますが……外部における政変といった、我々の全く予想しない要因が、ウクライナ戦争における“ワイルドカード”になり得る可能性もあると感じました。

 小泉 ベラルーシ政変は、シナリオとしてはあり得ますね。

(本稿は2023年5月10日に「文藝春秋 電子版」で配信したオンライン番組をもとに記事化したものです)

小泉悠氏と高橋杉雄氏による「逆襲のウクライナ」全文は、「文藝春秋」2023年7月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。