それでも「完全に間違えた口座に単独で紐づけられたケースがあれば、別途確認しないといけない」(河野大臣)という問題は残る。同一口座の複数人登録という抽出方法も、氏名の表記揺れ(異体字や代用漢字)がコンピュータで正確に認識できないので限界がある。あくまで、一定のルールで機械的に抽出した結果でしかない。
総点検では、別の問題も発覚した。家族が同じ口座に登録していたケースが約13万件もあると分かったのだ。2021年に制定された公金受取口座法では、登録する口座は本人名義とされていて、家族の口座で登録してはならない。このためデジタル庁は9月末までに本人名義の口座に登録し直すよう呼び掛けている。
この問題は、748件の誤登録が疑われるケースとは様相が異なる。子供などの給付先として親が自分の口座を登録している例がかなりあると見られ、河野大臣は「マイナポータルでかなり複雑な操作をして紐づけしている」としており、手慣れた人が意図して行ったという認識だ。自治体の支援窓口で手続きをサポートしてもらわなければならなかった人とは事情が違うのである。
それはともかく、これらの問題に対処するため、デジタル庁は遅ればせながら誤登録を検知するシステムの開発を進めている。
問題の背景にあることは…
ちなみに、マイナンバーカードに記載・記録された氏名が漢字だけなのは、戸籍や住民票がそうなっているからだが、2023年6月2日にマイナンバー関連法の一つとして戸籍法の改正案が可決され、戸籍や住民票にふりがなが加えられることになった。デジタル庁は2025年6月の法施行に合わせて、システムの改修を行うとしている。それまではAIを使った検知モデルを開発して対応するという。
こうして、今回の問題を詳しく見ていくと、極めて人間的な側面がトラブルに影響を及ぼしているのが分かる。
そもそも「国のデジタル施策には、アナログな部分が多く混在している」と自治体の現場では指摘されてきた。誤登録の原因となった公金受取口座の紐づけ作業を人の手で行わなければならないのは、その最たる例だろう。
人間の作業が介在すれば、間違いが起きやすい。防ぐ手立てとして国が強調してきたのは、「マニュアルの順守」(河野大臣)だった。人間を機械に近づけるのだ。
福島市の目黒課長は「1人1人ログアウトを徹底するようマニュアルには書いてありました。そもそもマイナンバーカードの所有者なら、マイナポータルのサイトから自分で行う手続きなので、それほど難しくはありません」と話す。同市の菅野寿和・デジタル推進係長も「マニュアルは紙芝居のように字が大きく、絵も入れてあって、分かりやすい内容でした」と話す。