一方、デジタル庁はこれまで登録された全国約5400万の口座について誤登録がなかったか、福島市民の口座調査が終わった後、総点検を始めた。同一口座が複数人に登録されていないか。そして、姓や住所が違っていないか、チェックしたのである。
その結果、748件もの誤登録が疑われる口座が見つかった(福島市など誤登録が既に判明していた自治体の一部も含む)。これについて河野大臣は6月7日に記者会見を開いて発表したが、該当者への直接の調査はなされていない段階だったので、全てが誤登録かどうか、どういう理由でそうなったかは分かっていない。ただ、河野大臣は「ログアウトを忘れた例が多いと思っております」と述べた。
既に誤登録が判明していた15自治体もそうだったが、市区町村に設けられた支援窓口の共用パソコンで作業後、マイナポータルのサイトをログアウトをしないまま、同じパソコンで次の人の作業を行うと、次の人の口座が前の人に登録されてしまう。
そもそもデジタル庁は、福島市からの要請というきっかけがなくても、自ら総点検する考えはあったのか。#1で述べたように、公金受取口座のデータは全てデジタル庁にあり、自治体は見ることも、検証することもできないのである。
河野大臣は記者会見で「口座が存在しているかどうかの確認は行う予定だった」と述べた。つまり、口座の存否だけで、誤登録が疑われる口座の抽出は予定になかったのだ。
デジタル庁が挙げた“調査できなかった理由”
ただ、「最初のログアウト忘れ(2022年7月)のケースがあった際に対応していれば、748件にはならなかったのかなと思う」と発言し、ミスの公表や、これに伴う作業手順の周知徹底を行わなかったことが、事態を悪化させた点について反省の弁を述べた。もし、福島市が調査を要請しなければ、さらに誤登録が拡大していたろうし、他人への誤給付まで発生していたかもしれない。
河野大臣が、これまで調査ができなかった理由として挙げたのは、氏名の表記方法だ。マイナンバーカードに記載・記録された基本4情報(氏名・住所・生年月日・性別)のうち、氏名は住民票の記載通り漢字になっている。一方の公金受取口座は通帳名のカタカナで登録されていて、漢字とカタカナでは「システムで突合できない」とした。
今回、同一口座に複数人の登録がある事例を抽出するという方法で総点検できたのは、福島市での「前例」があったからだ。
そう考えると、福島市はやや気の毒な面がある。最初に公表したため、誤登録自治体の代表例のように扱われ、市としてのイメージが悪化した。しかし、全国で是正のきっかけを作ったという点では、デジタル庁や他の自治体に感謝されるべき存在ではないか。