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 91年の鈴木清順監督「夢二」で竹久夢二を演じるなど、沢田の映画出演は続いていたが、「大阪物語」のジュリーはダメな男の可愛げと哀愁を軽妙に演じて絶品である。漫才シーンもだが、無精髭に縮みのシャツとステテコ姿があれほど色っぽい俳優はそういない。それぞれが別の相手役で演じた「夫婦善哉」を、この2人で見たかったと思う。

 目の前に現れたジュリーは、威圧感もなく、バリアーも張らず、フランクで穏やかな話しぶりが意外だった。熱狂的なジュリー・ファンとして知られた森茉莉が、「週刊新潮」の連載「ドッキリチャンネル」で、対談した時に沢田はほとんど話さず、できあがった原稿では話しているようになっていた、と書いていた。「ガラスのジュリー」は人を寄せつけないだろうと、勝手なイメージを抱いていたのである。

ジュリーが語った「妻への愛」

 夫婦関係について質問しても沢田は嫌な顔を見せずに、妻への愛と尊敬と信頼と、2人で飲むお酒の美味しさを衒うことなく口にした。

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「一番の理解者には違いなくて、むしろ同志に近いかな。お互い、出演したものは全部観ますから」

 京都言葉が混じる話し方は、静かで柔らかい。芸能生活におけるターニング・ポイントを訊ねた時は、少し間を置いてから答えた。

「……やっぱり離婚、結婚の時期ですね。まあ、のりきるのにエネルギーがいったということです。世の中の人に自分が品行方正な人間やと思われてたら困るという部分も含めて、一番いろいろ考えました。それこそ、再婚したからって本当に幸せになるかどうか何の保証もないわけで、その覚悟は大変だった」

「二度と女の人を悲しませたくない」

 再婚後に他の女性を好きになったことがあるか、と不躾に問うた時も返事に迷いがなかった。

「それはないね。ヘッヘッヘ……。あの時、僕が一番思ったのは、二度と女の人を悲しませたくないということと、今度は自分が悲しい思いをすることになるかもしれないということ。現実問題として相手は7つも若いし、因果はめぐって今度は自分が捨てられるかもしれないで、ということも覚悟した」

 渡辺淳一の『失楽園』がブームだったので、不倫について意見を求めた。彼は即座に否定した。

「あれはやっぱり男の願望であって、無責任な行為。やったらダメですよ。嫁さんと恋愛すればいいんです」

「喧嘩もいっぱいしてきたけど、喧嘩したままじゃないから、お互いのことをだんだん大事にできるようになってきたんでしょうね」