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〈人と自分が違うのを受け入れるってことが、分かってきたような気になってますね。かもしれない、かもしれないって部分が一杯出てきて、大変なんだけどね〉(「週刊文春」94年11月3日号)

沢田研二が待っていた「復活の時」

 同じ意味のことを、作家の田辺聖子が夫であるカモカのおっちゃんと「一緒になった幸せ」として書き、話している。相手の価値観を内面化して、刺激しあって視野や世界を広げていくことは、恋愛にしろ、結婚にしろ、友情にしろ、他者との関係におけるひとつの理想型である。

©文藝春秋

 文学座出身の女優は、〈表現しなくてはいられない自分ではなく、飄々とありたい〉(「太陽」99年1月号)と言う人であった。スーパースターが触れたことのない風を運んで来て、さまざまな「べき」から解放していったのだろう。折にふれ、「女性の作詞家のほうが僕には合う」と持論を述べる沢田には男の沽券などにはとらわれず、好きな人のために変わっていけるという才能があった。「神に選ばれし」半神は、普通の生を肯定していくことで人間へ回帰したのである。

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 大衆の欲望の客体として生きるスーパースターは、短命だ。マリリン・モンローは36歳で、エルヴィス・プレスリーは42歳で、マイケル・ジャクソンは50歳で逝き、石原裕次郎も美空ひばりも52歳で生涯を終えている。全方位から不特定多数の視線を浴び続ける人生はストレスと不安を募らせ、クスリやアルコールに依存させていく。

 沢田研二は酒は飲んでも溺れず、クスリなど必要としない。かけがえのないパートナーと日常を生きて、復活の時を待っていた。

ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒

島﨑 今日子

文藝春秋

2023年6月12日 発売

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