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 都営住宅は募集があるたびに単身も可という区分に申し込みを続けていた。10年以上も落選続きだったが昨年の春の募集で奇跡的に当選したということだ。

「墨田区から調布市への転居でまったく知らなかった所だけど、家賃が格段に安いのが魅力でした」

 都営アパートの家賃は1万8000円ほど。以前住んでいた墨田区のアパートは1DKで5万3000円だったから3分の1ほどで済む。これで楽になった。

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「だけど土地勘がまったくない所だから半年ぐらいは戸惑いましたね。迷子になっちゃったこともあるのよ。でも物価は安いし静かな所だから暮らしやすいですよ」

 その一方で通勤は無理だった。まず私鉄で新宿まで出る、次に地下鉄に乗り換えて大手町へだと1時間20分ぐらいかかる。それにパートの交通費は1出勤500円が上限なので定期券を買っても足が出てしまうというわけだ。

「コロナの影響で在宅勤務する人が増えたから社員食堂を利用する人も少なくなり、そんなに人はいらないという話も耳に入ってきました。アルバイトやパートから切られるのは目に見えていたから辞めることにしたんです」

 今のパート仕事は高齢者事業団のような団体が斡旋・紹介してくれたもの。厨房で調理器具を使って立ち仕事をやるより身体は楽だ。

「今はパート収入と年金で細々と暮らしています。でも年金は少ないのよ、厚生年金と国民年金ですけど、厚生年金は現役時代の収入に連動しているでしょ。そんなに賃金の高い仕事じゃなかったし、加入期間の6割以上が国民年金だから仕方ないわよね」

 生命保険会社や郵便局から個人年金の勧誘が来ていたが、保険料を払い続ける自信がなくためらってしまった。もしも月2万円、年間24万円ぐらい受給できるコースに入っていたらと思うと後悔する。

「具体的な年金額は約10万2000円です。これにパートの5万5000円ぐらいを加えた15万6、7000円が1ヵ月の全収入ということになります。余裕はありませんよ、だけどこれで暮らしていくしかありませんものね」

 家賃と水道光熱費、その他食費など生活にかかるお金の合計が10万円を超えないようにやり繰りしているということだ。

人との付き合いにお金は欠かせない

「パートでもらうお給金はほとんど手を付けないで蓄えに回しています。使わざるを得ないことってあるでしょ、そのときに恥をかかないようにしたいですから」

 息子、娘とも都内在住で行き来は頻繁。正月には孫を連れてやって来る。ここで必要なのがお年玉。

「お年玉をくれないおばあちゃんなんて嫌でしょ。わたしだって孫たちにお年玉のひとつもあげられないのは惨めですよ」

 息子のところの長女が小学校に入ったときは、奥さんの親がランドセルをプレゼントしてくれたと聞いたので学習机を贈ってやった。