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「まぁ、捏造です」「捜査員の個人的な欲でこうなってしまった」警部補が驚きの証言…大川原化工機が国を訴えた「冤罪事件」の行方

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 軍事転用可能な機器を輸出したとして逮捕・起訴され、その後一転して起訴が取り消されたメーカー「大川原化工機」の大川原正明社長(74)らが、東京都と国に計約5億6000万円の損害賠償を求めた訴訟。6月30日には、捜査を担当した警視庁公安部の男性警部補が証人として出廷し、自ら「(事件は)捏造です」と証言する異例の展開を迎えた。

写真はイメージ ©iStock

「同社は液体を粉末に加工する『噴霧乾燥機』で、国内トップのシェアを占めます。警視庁や東京地検がかけた疑惑は、この噴霧乾燥機に生物兵器に転用できる滅菌機能があり、輸出の際に必要な国の許可を得ていなかった、というものでした」(司法担当記者)

 警視庁公安部は2018年10月、同社を外為法違反容疑で家宅捜索に踏み切った。大川原氏らは誤解を解くべく、機器の図面を提供するなど全面協力。幹部らが300回弱の任意聴取に応じたが、20年3月に大川原氏ら幹部3人を逮捕。東京地検は全員を起訴した。

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「それでも、3人は頑として容疑を認めませんでした。このうち、噴霧乾燥機の開発に関わった相嶋静夫顧問は逮捕から約半年後の20年10月に胃がんが発覚。11月に勾留が停止されて入院したものの、すでに手遅れで翌21年2月に亡くなりました」(同前)

 事態が動いたのは、それから10カ月後のことだ。

「公判に向けた弁護側の実験で、そんな滅菌機能はそもそも全く備わっていないことが分かりました。実験結果を知った地検は21年7月に起訴を取り消し、年末には東京地裁が3人に1130万円の刑事補償の支払いをするよう命じた。裁判長は『無罪判決を受けるべきだと認められる十分な理由がある』と述べ、捜査当局の完敗でした」(同前)