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改めて「超将棋100局勝負」を分析してみる

 ここまで100局、すべての佐藤と糸谷による熱戦を盤側で見守ってきた。最後にこの特殊ルール対局の分析を行っていきたい。

(1)切れ勝ちについて

 時間切れ勝ちは佐藤7勝、糸谷21勝。佐藤はすべてチェスクロックが利き手側にあったときのみの勝利だった。糸谷も利き手側にあるときは14勝と多い。ふたりの勝ち星が偏っていることを踏まえると、「チェスクロックが利き手側にあったほうが有利」は実証されたといってよいだろう。

 

(2)戦型について

 ふたりは基本的に居飛車党ながら、とにかく振り飛車が多かった。佐藤は振り飛車を56局と半分以上を割き、糸谷の振り飛車は23局。相振り飛車に進展したのは9局である。

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 糸谷は「疲れてくると薄い右玉は指しきれなくなるので、玉の堅い振り飛車に頼るしかなかった」「自分は穴熊が向いていない」と話している。戦型によって玉の堅さは異なり、堅ければ堅いほど詰まされにくいので有利だ。しかし棋風との相性が問題で、特に糸谷は穴熊だと力強い受けの持ち味を発揮できず、単純に固めればよいというものではない。

 相居飛車の最新形は数えるほどしか登場しなかった。雁木や右玉が多かったのは、じっくり金銀を組み合う将棋を両者が好むからだろう。お互いに玉が薄いまま一気に攻め合って決着をつける将棋もほとんど見かけなかった。また、短時間ならではの力戦形や珍形も登場したのが面白い。

 

(3)早指しの極意

 佐々木勇気八段が「2切れは将棋、1切れはスポーツ」といったように、2分切れ負けは盤上の形勢がそのまま勝敗につながるケースが多いようだ。しかし、急所で読みを入れながらも、時間がなくなれば反射神経の勝負になる。その塩梅は練習経験がある糸谷に一日の長があったといえるだろう。

 佐藤は「切れ負け将棋ならではの玉の逃げ方、王手がかかりにくい格好にしておくなどを1日目で学ばせてもらって、2日目に生かすことができたのは大きい。さらに別次元の切れ負け将棋の極意を糸谷さんが示されていたが、そこを吸収する間もなくなだれ込まれたなという感じです」と総括している。

 糸谷将棋について、先崎学九段が「彼の基本線は時間攻めなんだ。プロの時間攻めは相手に考える時間を与えないんじゃない。相手を焦らせるのが、プロの時間攻めです」と評したことがある。相手に選択肢を与えれば、その分だけ相手を迷わせることができる。

 特に佐藤は分岐点を自分の納得がいくまで考えたいタイプなので、その戦術は有効だ。また、形勢が悪くなっても相手にプレッシャーをかけてカウンターを準備しておけば、相手が自玉に神経を使って攻めるので悪手が出やすく、最後の王手ラッシュで時間を切らしやすい。その技を存分に発揮したのが今回の100局だったといえるだろう。