(4)100番の過酷さ
総手数は12499手で、ひとり約6200回ほど駒を動かし、チェスクロックを押す作業を繰り返したことになる。普段の公式戦は100手前後の終局が多く、チェスクロックを自分で押すことはほぼない。手数だけで考えても約124倍の負担で、長時間連続だとさらに疲れは増していく。揉みほぐしを担当したスタッフの証言にもあったように、キャベツ1個分の重さの片腕を酷使した結果、全身に疲労が蓄積されていった。
椅子は前かがみになって対局することを考えると、キャスターつきのゲーミングチェアが最適のようだ。束の間の休憩で背もたれを使えるのも大きい。
ちなみに感想戦は駒を並べ直しながら、口頭ですべて行っていた。合理的に考えればその時間を休憩に当てたほうがいいかもしれないが、その一局を相手とともに振り返りたいのが棋士である。
(5)総論
前評判通り、糸谷の早指しはすさまじかった。その糸谷が「100番勝負で1分なら山崎さんが強い。絶対に時間が切れないから、盤上で決着をつけるしかない」と話していたのだから、山崎隆之八段の実力が想像できない。
ちなみに藤井聡太竜王・名人については、糸谷が「若いし、強くないわけがない。ただ、経験がどうか。どれだけ切れ負けをやっているかがポイントになる」、佐藤は「一回、藤井さんを引っ張り出す手はあるかもしれません(笑)。もちろん強いでしょう。時間切れ勝ちを狙おうと思ったら、こちらの玉が詰まされるかもしれない」と話した。藤井竜王・名人はフィッシャールールでも圧倒的な強さを見せている。もし切れ負けに慣れていなかったとしても、持ち前の適応力でその極意を身に着けてしまうかもしれない。
2切れの帝王・糸谷を倒すのは誰なのか。次回の開催が待ち遠しい。
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