いまではさすがにその頃の賑わいは見られないが、いまも北裡通り沿いには多くの飲食店やスナック、クラブの類いが集まっていて、福島市内随一の歓楽街になっている。

 歓楽街の外れに来ると、昔ながらの小料理屋もポツポツと。福島は、戦時中にも目立った空襲被害を受けていない。そうしたこともあって、戦前から、さらには江戸時代からの町割りがいまもどことなく残っているということなのだろう。

 ちなみに、北裡通り沿いにはそれこそ花街から通じる遊郭があったという。町の中心のすぐ近くに遊郭というのは、清廉さを重視する明治の世にはあまりふさわしくない。そこで、明治時代後半に郊外に移転している。その場所は、福島駅の南西側。

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 新幹線のホームに近い西口の駅前は、アパホテルや東横インなどがいくつかある以外はいかにも郊外といった趣が強い。イトーヨーカドーやラウンドワンの大きなビルが目立つくらいなものだ。駅の裏側、というのにふさわしい。そこに遊郭を移転させるというのは、実によく考えられたものだといっていい。

 
 

駅に足を向けると次第に曲が聞こえてきた。これは…

 その西口に出て、ラウンドワンの脇を抜けて南側の住宅地に向かう。すると、住宅地の中にしてはいかにも違和感のある広すぎる道がある。クルマ通りが多いわけでもないのに、4車線はあろうかという広い道。

 このあたりが、福島の遊郭・一本杉遊郭だったのだろう。むろん、遊郭は昭和に入って衰退していまはその道以外に痕跡はなく、完全なる住宅地に生まれ変わっている。福島が刻んできた歴史の遺産のひとつだ。

 福島の町を歩いて、福島駅に戻る。町の中にも、古関裕而さんの生家跡(レンガ通りにある)だったり、ボタンを押すと作曲した曲が流れるオブジェだったりが点在している。もうひとつの福島名物・フルーツはもっと郊外で作られているのだろう。

 
 

 駅前の古関裕而像からは、30分ごとに曲が流れる。「栄冠は君に輝く」をはじめ、「高原列車は行く」「スポーツショー行進曲」などさまざまに。そして、そのラインナップに六甲おろし、やっぱりありませんでした。

写真=鼠入昌史

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