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短い会話で得た“確信”

 北海道日本ハムファイターズ当時からの師弟関係と見られるためか、私と翔平は絶えずコミュニケーションを取っていると思われがちです。これが決してそうではなく、言葉のやり取りは必要最低限と言っていいぐらいです。

 この場面でも、「翔平、身体は大丈夫か?」と聞くと、「はい、まあ」との答えでした。

「疲れは溜まっていないか?」

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「大丈夫ですね」

「じゃあ、いける感じ?」

「まあ、あとは身体の張りがどれだけ取れるかだけですね」

 これで終わりなのです。エンゼルスとどんな話をしているのか、彼は切り出してきませんでした。ということは、聞かないほうがいいのでしょう。私も触れませんでした。

 それでも、決勝に勝ち進んだらマウンドに上がると確信しました。

 

 短い会話を終えると、翔平は練習に戻っていきます。楽しそうでした。思うように身体を使って野球ができているときほど、彼は楽しそうで、嬉しそうなのです。

 WBCのエンディングへ向かって、私のイメージが膨らんでいきます。

 その日の夜にノートを開いた私は、稲盛和夫さんの有名な言葉を書きました。

「現実になる姿が、カラーで見えているか」というものです。

フラフラになってもぶっ倒れるまでやり抜く

 準決勝はこんなメンバーで戦い、こんな展開で勝ち上がる。そして決勝にはこのメンバーで臨み、早い回に先行したらこう、同点のまま進んだらこう、追いかける展開ではこう、と、あらゆるシチュエーションを想定していきます。想定して、その先をさらに想定する。こうなるためにこうする、という願望を積み上げていくと、現実になる姿が輪郭を帯びていき、白黒の画面が鮮やかな色で染まっていきます。

 森信三先生は『修身教授録』のなかで、「とにかく人間は徹底しなければ駄目です」と気づかせ、「しゃにむにやり通すか否かによって、人間の別が生じるのです」と教えます。

 七割か七割五分あたりで辛くなってくるけれど、フラフラになってもぶっ倒れるまでやり抜く。その頑張りが最後の勝敗を決するのだ、と言います。

 

 実際に倒れてしまったら、会社の同僚や家族、友人が心配してしまいますが、人生の勝負どころではそれぐらい頑張っていいのかもしれません。

 私自身は色つきの画像にとどまらず、カラーの動画で見えるぐらいまで考え抜きます。

 準決勝を前にした私は、優勝した瞬間の映像をくっきりと思い浮かべることができていました。