マンションでの乖離率の平均は2.34倍と言われている。つまり時価1億円のマンションであれば評価額は4273万円(1億円÷2.34)になる。タワマンに限らず、マンションは現金で持つよりもはるかに税負担の少ないいわば金融商品のような役割をもってきたことがわかる。
そこで今回予定されている改正では、実勢価格との乖離率が1.67倍以上になる場合においては、「相続税評価額×乖離率×0.6」で評価することになった。「相続税評価額×乖離率」でいったん実勢価格に調整しなおしてから0.6掛けする根拠はなんだろうか。これには一応の理屈がある。戸建てにおける平均乖離率は1.66倍であるからだ。戸建てと同じ水準の乖離率ならオーケー。それ以上の場合はいったん時価に戻してから、戸建てと同様の調整を掛ける、つまり1÷1.66=0.6だから、これによって戸建ての場合との格差を是正しようとしたのである。
この改正が適用されるのは2024年1月1日以降、相続や贈与によって取得する財産だ。タワマンだけが対象ではなく、マンションの場合はすべてが該当する。
相続税対策のはずが“大増税”に
さてここで困った問題が発生した。時価と評価額の乖離に着眼して相続税対策を行ってきた人たちだ。これまで時価の3、4割に評価額が圧縮されることによって大きな節税が実現できるはずだった富裕層にとってはまさに「寝耳に水」ともいえる改正だ。
さきほど掲げた東京都内のタワマンを例にとると、乖離率は3.2倍であるから
3720万円×3.2×0.6=7142万円
課税評価額:7142万円-3600万円(基礎控除)=3542万円
相続税:3542万円×20%-200万円=508万円
なんと496万円、42倍もの大増税ということになる。
「父さん(母さん)死んでも税金は大丈夫」
と思っていた相続予定の人たち(息子や娘)には計算外の増税である。万が一、今年中に亡くなった場合は想定内の金額だろうが、相続税対策のやり直しを迫られる世帯が急増するだろう。