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角幡 いやぁ、給料は良かったですよ。20代後半の新入社員がもらう給料としては破格だったと思います。

高橋 車もハイヤーですよね?

角幡 そう、最初の半年間はハイヤー。要するに入社したての仕事に慣れてない新人記者が自分の車に乗って事故を起こしちゃ困るってことだったと思うんですけどね。黒塗りのハイヤーでサツ(警察)回りをやるわけですよ。警察官とか「何様だ? こいつ」って思いますよね。常識で考えたらおかしいことを普通にやらせてたわけです。朝日だけじゃなくて、大手の新聞・テレビはどこもそうだったんですが。

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高橋 さすがに今、ハイヤーは相当少ないって聞きますけどね。そういう感じだと普通、半年で“辞めたくない”ってならないですか?

角幡 いや、最初の1年くらいはすごく忙しかったですから。ほとんど休みも取れなくて、好きな山登りにも行けないし、仕事に追われてるっていう感じはありましたね。辞める、辞めないって思う暇もないほど忙しかったです。

 そんな中で、やっぱり記事書いて、それがちゃんと形になって新聞に載るわけじゃないですか。記事を書くっていうのもそれなりに面白かったですし、自分なりに取材して文章になる、小さな記事ですけど、自分が作った作品とまではいかないけど、ちょっとそれに近い感覚というか、いい記事書けたなとか思ったりもするわけです。

新聞記者5年やっても探検家になりたかった

高橋 朝日新聞社では何年くらい記者をされていたんでしたっけ?

角幡 5年ですね。最初の3年間は富山支局に行って、それから転勤して埼玉県の熊谷市にある北埼玉支局に行って、その後辞めました。結局、入社3年経った時に貯金が全然なかったんです(笑)。保険とか、税金とか、収入がそれまですごく良かった分、辞めた翌年にそれが掛かってくるじゃないですか。全部で100万円くらい取られると思うんですよね。でも、僕の記憶では貯金が3万円しかなかったと思う。

「貯金が3万円しかなかったと思う」©文藝春秋

高橋 なんでそんなに使っちゃってたんですか!? 旅行とか、探検とかで?

角幡 それが全然分かんないんですよね(笑)。学生のときの探検の資金で、親や弟からお金借りましたけど、それは全部返して。なんであんなになかったのか……。

高橋 『極夜行』(2018年/文藝春秋)には、熊谷のときは太田市(群馬県)にあるクラブにはまってたみたいなこと書いてましたよね(笑)。

©文藝春秋

角幡 そういうのもありますよね(笑)。遊興費も当然あると思うんですけど、まあ……たしかに毎日飲んでたし、同僚や記者仲間と焼肉屋ばっかり行ってましたしね。無駄な金をほとんど日々の生活に注ぎ込んでいたような気がしますね。

高橋 結局、お金がないからちょっと長めに朝日新聞社にいたと。