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角幡 作家じゃなくて、ライターになれればいいと思ったんですよね。新聞記者やって、書く面白さにも目覚めたし、新聞記事では書けないような自分なりの表現で文章を書きたいという欲も出てきました。フリーライターとして生きていければいいかなと。

 ツアンポー峡谷の探検はやりたかったですから、それは本にしたいと思ってましたけど、それをもし本にできたら、どっかの編集者が面白いねって思ってくれて仕事をくれて、それでライターとして生きていけるかもしれないなっていう程度ですよ。

 だから、800万円貯めたんですよ、最後の2年間で。その時の会社員生活は、あの手この手を使ってお金を使わないようにして。まあ、太田市のクラブには行ってましたけど(笑)。

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高橋 太田市のクラブだけは例外でしたか(笑)。

角幡 あとは家賃の安いアパート住まいをしてね。それで800万円くらい貯まったんです。これで3年間はたぶん何もしないで大丈夫だと。3年の間にツアンポー含めてやりたいことやって、本を書く。もし、それが失敗して、ライターとして生きていけなかったらホームレスになるしかないなって。

高橋 そこまで覚悟してたんですか?

角幡 覚悟してましたね。

「辞めた人間に賞をくれるんだから、いい会社ですよ」

高橋 やっぱり、いい意味でイカれてると思うんですけど(笑)、それで書いたのが『空白の五マイル』で、開高健ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞を取られて、その後、『アグルーカの行方』(2012年/集英社)で講談社ノンフィクション賞(現・講談社 本田靖春ノンフィクション賞)、その後も破竹の勢いですよね。

 僕は『極夜行』から入ったんですけど、あれは本屋大賞ですかね?

角幡 大佛次郎賞というのもいただいたんですよ。これが僕の中では一番価値ある賞ですね。小説も含めたあらゆる散文が対象ですから。大佛次郎賞は朝日新聞社の賞ですからね。辞めた人間に賞をくれるんだから、いい会社ですよ。

ノンフィクション本屋大賞受賞当時の角幡氏 ©文藝春秋

高橋 僕、あまり情報感度高くないんですけど、『極夜行』ってなんでそんなにバズったんですか?

角幡 いや、そんなにバズってないです(笑)。賞もいただいたし、本好きの間では結構話題になったと思うんですけど、そこまでめちゃくちゃ売れた本じゃないです。自分の書いた本の中では、1番か2番ですけどね。