角幡 新聞記者を3年やって、仕事も面白いですし、やっぱり会社員というか、サラリーマンとしてはすごく面白い仕事だと思うんです。だから、とりあえずあと2年やって、その時に決めようかなっていう感じでいました。
高橋 あと2年やってみて、なんで会社辞めることになったんですか?
角幡 やっぱり一つは探検家に戻りたいと思いましたね。僕は、学生のときからチベットのツアンポー峡谷の探検に命を懸けてたんですよね。
高橋 『空白の五マイル』(2010年/集英社)のところでしたっけ?
角幡 そうです。それをやらないと生きてる意味がないっていうくらい、気合が入ってたんです。入社前に1回行ったんですけど、その探検が自分にとっては完璧ではなかった。1人でできることとしては相当なことをやったと思ったんですけど、本当にやりたいことが完全にできたわけではなかったんです。ですから、もう1回、あそこに行って自分の探検を完成させたいというのが、一番大きかったですね。
高橋 やっぱりそこが一番イカれてるなと思う点なんですけど(笑)、一応、朝日新聞社って地方支局へ行くと、その地方でめっちゃ年収高いわけじゃないですか。それを辞めるのは怖いとか、普通は子ども作って安定したいとか思うでしょ。
角幡 安定したいっていう感覚は全くないです。今もないんですよ、正直言って。
死ぬ時に後悔したくないから朝日を辞めた
高橋 そのあたり詳しく知りたいですね。人間、誰でもやりたいことってありますよね。角幡さんの探検もそうだし、僕もいろいろあるし、みなさんあると思うんですよ、実はこれやりたいって。でも、いろいろな制約を設けて、その選択はしないと思うんです。そこをどうしたらやりたい側に行けるのか。どうして行けるんですか?
角幡 やっぱり“死ぬ時に後悔したくない”っていうのはありますよね。たとえば“新聞記者をずっと続けたら、俺は探検をしないで死ぬんだな”って。それが嫌だったのがまず一番にあります。
だから、やりたいことを……とりあえずうまくいくかどうか分からないですけど、うまくいかなくても自分で決断して、やりたいことを選択するという、その決断が重要だと思うんです。仮に失敗しても、自分の選択だからしょうがない。正直言って、会社を辞める時は、作家になるなんて想定してませんでした。
高橋 作家になると思ってなかったんですか?