取材場所に現れた170センチのすらりとした長身。日本では、オダギリジョーと共演した映画『宵闇真珠』や川島小鳥の写真集、銀杏BOYZのCDジャケット、Vaundyの「Tokimeki」のMVなどで、“香港のトップモデル”として知られている。

「確かにファッションモデルの仕事を多くしてきましたが、自分としてはずっと俳優だと思ってきたんです。なかなか認められないんですけど」

 と笑う。そんな彼女が新作『星くずの片隅で』で演じるのは、華やかなイメージとは異なる、貧困に苦しむシングルマザー。この役で香港アカデミー賞の最優秀主演女優賞にノミネートされた。惜しくも受賞はならなかったが、「自分のキャリアで最も重要な作品になった」と言う。

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 ――経済格差の広がる香港を新型コロナウイルスのパンデミックが襲い、人々の生活は一層深刻さを増している。ザク(ルイス・チョン)は清掃会社を経営し、消毒作業で糊口を凌いでいるが、消毒液が不足し始めた。そんなときに出会ったのが、万引きを繰り返しながら幼い娘と生きてきたシングルマザー、キャンディ(アンジェラ・ユン)だった。

アンジェラ・ユンさん 撮影 深野未季

「もともと同じ演技のワークショップに通っていたルイス・チョンさんが、素晴らしい脚本があると教えてくれたんです。そこでオーディションを受けました。役のイメージに合うように、お金がないシングルマザーはどんな服を着てどんなアクセサリーをつけているのか、考えて身につけていきました」

 その甲斐あってオーディションに合格。監督やスタッフと相談しながら、貧困の中でも安価な衣類を様々に工夫して装う役柄を形作った。

「初めての母親役でしたが、あまり母親らしくないという設定で助かりました(笑)。この映画は香港の厳しい現実を背景にしていて、リアリティを出すのがとても大事。娘役の子が演技をするのが初めてだったので、撮影だと意識させないようにするのが大変でした」

 ザクのもとで働き始めたキャンディは、苦しくともまっすぐに生きようとするザクに影響を受けていく。二人の間には次第に信頼感が深まっていくが、そんなときにキャンディがすべてを危うくする行為をしでかしてしまう。

「キャンディの盗み癖はもちろんよくないことですが、彼女がそうしてしまうのは、幼い娘を抱えて生きていかなければならないという切実な問題があるから。いまの香港は富裕層、中間層、貧困層に社会が分断されてしまい、一度下に落ちるとなかなか這い上がれない。そんな生きづらい社会の中で、ずるいことをしてしまうか、それでも自分を律していくか。そのせめぎ合いは、香港ばかりでなく、コロナ以後の世界中で起こっていることではないかと思います」

 映画はひと筋の希望を見出して終わり、深い余韻を残す。

 目標は、ジェニファー・ローレンス、ケイト・ブランシェット。次なる代表作を目指して、「自分の俳優としての特色をいかに出していくかがこれからの課題」と語った。

Angela Yuen/1993年香港生まれ。大学で会計学の学士号を得る一方でファッションモデル、俳優として活躍。主な出演作にオダギリジョーと共演した『宵闇真珠』(2017)、『香港ファミリー』(22、大阪アジアン映画祭2023上映)などがある。

INFORMATION

『星くずの片隅で』
7月14日公開
https://hoshi-kata.com/