東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠さん、防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄さんによる対談「プーチンが元気ないぞ」を一部転載します(文藝春秋2023年8月号より)。

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反転攻勢が始まった

 高橋 6月上旬から、ウクライナによるロシアへの反転攻勢が始まったとされています。この対談がおこなわれている時点(6月15日)での情勢を簡単におさらいすると、南部ザポリージャ州のトクマク、東部ドネツク州のヴェリカ・ノヴォシルカ、同じくドネツク州のバフムト、主に3つの地域で激しい戦闘がおこなわれています。

 もう一つ、こちらは未確認ながら、バフムト近くのリマンからクレミンナに向けても戦闘がおこなわれているようです。ロシア・ウクライナとも、この戦域にかんしてはほとんどリリースを出していませんが、人工衛星のデータを確認すると、要所要所で火災が発生している。ウクライナ側がミサイル攻撃や砲撃を仕掛けていると考えられます。

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高橋杉雄氏 ©文藝春秋

 小泉 今の状況が本格的な攻勢なのかはさておき、東部から南部にかけてのほぼ全エリアで、ウクライナ軍がロシア軍を圧迫しにかかっていることは確かですね。本来ならウクライナ軍は、ヘルソン州の方面でも攻勢をかけたかったはずです。そうやって全戦線で隈なく圧をかけて、上手くいったところに戦力を集中させるのが、当初の構想だったのではないでしょうか。

 高橋 普通はそう考えますよね。全戦線で圧力をかけて、サイコロの6が出たところに第二陣を投入するのが定石です。

 では本命はどこを狙うか。ウクライナ軍にとってはトクマクからメリトポリを狙うのが一番効果的ですが、そんなことはロシアも承知のうえで強固に陣地を張っている。となると、本命はヘルソン方面での渡河作戦ではないかと、私は当初考えていました。

 ところが、6月6日にカホフカダムの決壊が起こり、ドニエプル川の下流域で大規模な洪水が発生。一帯が水浸しになってしまったため、この正面では大胆なことが出来なくなってしまった。小泉さんはダム決壊については、やはりロシアがやったと思いますか?